The Chronicle of Broadway and me #1036(The Music Man)

2022年5月~6月@ニューヨーク(その8)

 『The Music Man』(5月31日19:00@Winter Garden Theatre)についての感想。

 コロナ禍前に予約して最後まで保持していたのが、この舞台のチケット。予約したのは、♬こんな日が~来るとは思わずにいた~(わかります?)2019年9月14日で、その時点で1年以上先の2000年10月2日の観劇予定だったのだが、新型コロナ来襲で日程が今年(2022年)の1月14日に変更され、その時期が近づいても渡米できる状況は訪れず、結局、年が明けてから返金を希望して手放した。
 それだけ観たかったのかと問われると、そうでもなく(笑)、スター芝居だしなあ、と半分ぐらいは思っていた。作曲・作詞・脚本メレディス・ウィルソンによる往年の名作で、上掲写真の看板にあるように、ヒュー・ジャックマンとサットン・フォスターの名前を大きく打ち出した公演。2人とも、好きな役者だし華はあるが、ミュージカル俳優としての技量は“超”の付く“一流”ではないし……。
 幕が上がっても、その思いはすぐには消えなかった。が、途中からノッてくる。田舎町の音楽教師で図書館員のヒロイン、マリアンのキャラクターが、演じるサットン・フォスターに合わせて微調整されていて、それが新鮮だったからだ。

 『The Music Man』のストーリーや見どころは2000年リヴァイヴァル版とほぼ変わりないので、そちらの感想をご覧いただきたいが(我ながら、よく書けてる!)、その2000年版のマリアン役レベッカ・ルーカー(惜しくも2000年暮れに筋萎縮性側索硬化症で亡くなった)は、明らかに初演のバーバラ・クック(1957年)や映画版(1962年)のシャーリー・ジョーンズの系譜に属するタイプ。清廉で少し頑(かたく)なだが根は優しい(酔っぱらう前の『Guys And Dolls』のサラ・ブラウンみたいな)。そんなイメージ。
 その点、フォスターというキャスティングはどうなんだろう、と少し疑問に思ってもいた。過去の役柄から言って、「清廉で少し頑(かたく)なだが根は優しい」は合っているが、彼女の場合、そこに「やんちゃ」あるいは「はすっぱ」が加わらないか?
 加わってました。はっきりと「やんちゃ」「はすっぱ」というわけではないけれども。詐欺師ヒル教授(ジャックマン)に付きまとわれて、出会い頭に「またアンタか」って具合にガックリうなだれてみせる仕草に始まり、彼と交流を持つようになってからの「ツンツン」ではなく「サバサバ」したやりとり。素晴らしい男性に巡り合って幸せをつかむ、とかって感じじゃない根っから独立した女性(もちろん巡り合ってうれしいけれども)。これはもう、フォスターの個性に合わせた新しいマリアン像と言うしかない。でもって、その女性像は、一方で時代の要請でもあったと思う。
 そんなサットン・フォスターに対する、“うま過ぎない”ヒュー・ジャックマンという組み合わせも結果的に絶妙で、なるほど、これはキャスティングの妙だと、観てわかった。初演のロバート・プレストン以来、歌というより速射砲のような語りを音楽に乗せるヒル教授の歌唱法もジャックマンに似合っている。

 演出はジェリー・ザックス。前記のようなマリアンの人物造形等は細かく施すが、話の方は、素朴な感じの背景画が描かれた幕を多用したり、役者がオーケストラ・ピットとやりとりしたり、というヴォードヴィル的手法を巧みに使って、もったいつけずにサクサク進めていく。それが気持ちいい。
 そうやって快適に進行する舞台の要所要所を、ウォーレン・カーライルが力のこもった振付で埋め尽くしていく。振付全体に、2000年版のスーザン・ストロマンの華やかさとは違う、田舎町ならではの祝祭感のようなものがあって楽しい。

 主演の2人以外の主な出演者は次の通り。
 市長夫人を演じて笑いと芝居の勘所を締めるのが、『Coraline』で少女を演じた(!)ジェイン・ハウディシェル(『Bye Bye Birdie』『Follies』)。卓越したダンスで存在感を十二分に示すジノ・コスクユエラ(ブロードウェイ・デビュー)。市長役は巧みなジェファーソン・メイズ(『A Gentleman’s Guide To Love & Murder』)。ヒル教授の昔なじみマーセラス役が『Young Frankenstein』でモンスターを演じたシュラー・ヘンズリー(『Oklahoma!』『The Great American Trailer Park』『Tarzan』)。マリアンの母役マリー・マレンは1998年のストレート・プレイ『The Beauty Queen Of Leenane』でトニー賞主演女優賞を得た人。マリアンの弟役はベンジャミン・ペイジャック(ブロードウェイ・デビュー)で、見どころはカーテンコール前のトランペット演奏。
 ハウディシェル、メイズ、マレンと、プレイ畑でも活躍する演技派を重い役で起用しているのは、必ずしも演技派ではない主演2人とのバランスか。

 トニー賞では、リヴァイヴァル作品賞、振付賞、主演男優賞(ジャックマン)、主演女優賞(フォスター)、助演女優賞(ハウディシェル)、衣装デザイン賞(サント・ロカスト)の6部門でノミネート。