The Chronicle of Broadway and me #1041(¡Americano!)

2022年5月~6月@ニューヨーク(その13)

 『¡Americano!』(5月29日19:00@Stage 3/New World Stages)についての感想。

 メキシコ系の人たちの、もう1つの『In The Heights』、というのが受けた印象。テキサス州オースティンを拠点に活躍するシンガー・ソングライター、キャリー・ロドリゲスの書いた楽曲(作曲・作詞)は、テックス・メックス風味で魅力的。ただし、『In The Heights』には面白さで及ばない。
 原因は、主人公をはじめとする登場人物たちにイマイチ深みがないこと。そして、話の展開にひねりが足りないこと。

 舞台はアリゾナ州フェニックス。メキシコ系移民であるトニーは、母とその再婚相手及びその息子との4人で暮らしている。義父や義兄弟と一緒に建築現場で働いているが、夢は海兵隊に入ること。仲のいい快活な女子セシィも同じ夢を持っていて、彼女が先に入隊する。ところが、海兵隊に面接に行ったトニーは、アメリカの市民権がないために入隊資格がないことがわかる。本人は知らなかったが、トニーは母が亡父とメキシコで暮らしていた時に生まれていたので、市民権を持っていないのだった……。
 というのが半ばまでの大筋。
 その間、親友を悪の道から救おうとしたり、セシィと恋仲になったり、というエピソードも織り込まれるが、トニー自身がやや直情的なハイティーンということもあって、ドラマに重層性が生まれてこない。
 海兵隊入隊で挫折したトニーは自暴自棄になるが、仲間にも助けられ、市民権獲得運動を推し進めるチカーノとして希望を見出していくというのが後半。新しい道を見つけるまでの右往左往はあるものの、見つけてからは逆に一本調子になりがち。そこに持ち込まれるセシィの訃報。劇的ではあるが、やはり唐突に感じる。まあ、最後は人々が希望を抱いて終わるのだが。
 この話自体がトニー・ヴァルドヴィノスという人の実体験を元にしているらしいのだが、一旦そこを離れて、新たなフィクションとして描き直してみたらどうだろう。より深みのある作品ができるんじゃないだろうか。題材は興味深いし、音楽は魅力的なのだから。

 脚本マイケル・バーナード(フェニックス・シアター・カンパニー)、ジョナサン・ローゼンバーグ、フェルナンダ・サントス。
 演出マイケル・バーナード。振付セルジオ・メヒア。

 主人公トニー役ショーン・ユウィング(2009年版『West Side Story』『Amazing Grace』)は主演者としては少し物足りない。セシィ役レーニャ・セディヨ。トニーの母役ジョハナ・カーリスル=ゼペダの肝っ玉母さんぶりがドラマを支えている。トニーの義父役アレックス・パエス。後半でトニーを助ける仲間ヨアキン役ルーカス・コートニーの柔軟な演技が印象に残った。

The Chronicle of Broadway and me #1041(¡Americano!)” への1件のフィードバック

コメントを残す