The Chronicle of Broadway and me #372(Jason Robert Brown at Chef’s Theater/Patti LuPone: The Lady With The Torch/Avenue Q[2])

2004年4月@ニューヨーク(その10)

 コンサート2つと再見のミュージカルをまとめて。
 

 『Jason Robert Brown at Chef’s Theater』(4月23日23:00@Supper Club)の会場シェフズ・シアターは、ホテル・エディソン併設のレストラン・シアター「サパー・クラブ」のこの頃の名称(このスペースはかつてのエディソン劇場で、昔はホテル内に入口があったはず)。
 そのクラブで、この春の(たぶん)3週間、金土の午後11時から“スペシャル・デザート・ショウ”と銘打ったイヴェントが行なわれ、その1つに登場したのがジェイソン・ロバート・ブラウンだった。他の回は、アンドリュー・リッパ、アダム・パスカル、ダフネ・ルービン=ヴェガ、ローレン・ケネディ、ビリー・ポーター。ジェイソン・ロバート・ブラウンと、それに続くアンドリュー・リッパが役者ではなく楽曲作者。

 ミュージカルの楽曲作者としてのジェイソン・ロバート・ブラウンのここまでの主な実績は、『Songs for A New World』(1995/オフ/未見)、『Parade』(1998/オン)、『The Last Five Years』(2002/オフ)、『Urban Cowboy: The Musical』(2003/オン)の4本。
 『The Last Five Years』は後に再演され、映画化もされて有名になるが、この時点では、なんと言ってもトニー賞楽曲賞を受賞した『Parade』の存在が大きい。逆に、直近の『Urban Cowboy: The Musical』はプレヴューを入れても3か月もたなかった興行的失敗作。だが、シェフズ・シアターのコンサートのラインナップにロバート・ブラウンが加わった背景には、『Urban Cowboy: The Musical』の舞台上に彼が登場してバンドと共に演奏していたことがあったのではないかと勝手に想像している。熱い雰囲気も含め、その延長線上に、このコンサートはあった気がする。
 観劇当時の感想は、<根っこにロックンロールを持つシンガー・ソングライター的気質がストーリーテラーの才能とうまく合体していることを確認させてくれた。>だった。
 9年後に観ることになる、もっと小さな会場(後述する54ビロウ)での親密な空気のライヴとは、やや印象の違う、外向きのコンサートだったと思う。
 

 『Patti LuPone: The Lady With The Torch』(4月24日23:00@Feinstein’s at the Regency)は、この翌年にリリースされる同名アルバムのお披露目的なコンサート。
 コンサートと言っても、会場のファインスタインズ・アット・ザ・リージェンシーは、ジェイソン・ロバート・ブラウンの場合同様、ホテル併設のレストラン・シアター。しかも小振りで高級。なにしろ、ホテルの格はリージェンシーの方がエディソンより、かなり上。ディナーをいただかない深夜の回でも、それなりのお値段だった気がする(汗)。
 ちなみに、オーナーのマイケル・ファインスタインは、リージェンシー・ホテルの改築に伴って、後に、自身のクラブをスタジオ54の地下にあるレストラン・シアター、54ビロウに移す(買収なのか名義貸しなのか部分出資なのか、詳細は知らないが)。54ビロウの名前がファインスタインズ/54ビロウになった所以だ。

 閑話休題。
 パティ・ルポンは、本格的ミュージカル(コンサート形式の例えば「アンコールズ!」シリーズ等を除く)に限って言えば、ニューヨークでは、1987年の『Anything Goes』以来、このコンサートの1年半後、2005年のリヴァイヴァル版『Sweeney Todd』まで出演していない(このあたりのことについては、1995年の『Patti LuPone On Broadway』のところで書いた)。そんな、ある種の飢餓感の中での小さな会場でのライヴなので、期待感は高い。
 観劇当時の感想は、<傷心の女をテーマにドラマティックに歌を聴かせる、小さなクラブでの沁みるライヴ。感動。>。そりゃそうだ。小さな会場で、勝手に“運命の出会い”だと思っている役者を間近に観て、感動しない方がおかしい。
 が、当日のルポンの出来とは別に、思い出すことがあり、最終的には、パティ・ルポンは、そうしたライヴに向かないんじゃないか、と今では思っている。ま、これは時が経っての考えなので、どの程度、的を射ているのかわからないが。
 当日、ルポンが客席に入って歌う場面があったのだが、そこで次の歌に向かうモノローグに入ろうとしている彼女に、酔客のひとりが無粋にも話しかけた。その時のルポンの対応が、もちろん酷くはなかったし、場の雰囲気がわだかまるようなものでもなかったのだが、必ずしも当意即妙とは言い難い気がした。そのことが印象に残っている。つまり、歌の世界に入ろうとしていたのを破られた時の対応が、“超一流”ではなかった。その感じは、やはり彼女は舞台上の人なのでは、という思いを強く抱かせた。
 それは欠点と言うほどのことでもない。ただ、パティ・ルポンが、そういうスタイルのエンターテイナーではないというだけの話。

 コロナ禍がなければ、ロンドンから逆輸入の『Company』で昨年(2020年)3月31日に再会を果たすはずだったパティ・ルポン。またお目にかかれることを、今はただ祈る。
 (追記)『Company』は2022年6月1日に観ることができた。
 

 『Avenue Q』(4月25日19:00@John Golden Theatre)は8か月ぶりの再見。

 初見の感想はこちらに詳しく書きました。その時からのキャストの変更は、アンサンブルの1人ジョディ・アイケルバーガーがバレット・フォアに替わっているだけ。
 ただし、観た回が日曜の昼公演だったので、代役が多かった。次の通り(カッコ内が宝塚歌劇で言うところの本役)。

 ケイト・モンスター、ルーシー他/エイミー・ガルシア(ステファニー・ダブルーツォ)
ニッキー、トレッキー、クマ他/ピーター・リンズ(リック・ライオン)、ゲイリー・コールマン/カーメン・ルビー・フロイド(ナタリー・ヴェネティア・ベルコン)。

 とはいえ、近づくトニー賞を前に盛り上がりつつある舞台、大いに楽しみました。

The Chronicle of Broadway and me #372(Jason Robert Brown at Chef’s Theater/Patti LuPone: The Lady With The Torch/Avenue Q[2])” への3件のフィードバック

コメントを残す