The Chronicle of Broadway and me #996(Moulin Rouge: The Musical)

2019年7月@ニューヨーク(その2)

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 『Moulin Rouge: The Musical』(7月5日20:00@Al Hirschfeld Theatre)についての観劇当時の感想。
 

 2019/2020シーズンの新作ミュージカル第1弾としてブロードウェイに登場した『Moulin Rouge: The Musical』のリポートをこちらに書きました。
 大ヒットしたミュージカル映画の舞台化ですが、仕上がりやいかに?

 旧サイトに書いた、その映画版の感想も、こちらにアップしてあります。併せて読んでいただければ幸いです。

【追記】上掲リンク先の記事(2019年7月11日公開)をブログ仕様にして以下に転載しておきます(<>内)。

<劇場に入ると、ボリウッド・ミュージカルを思わせるような金ぴかの派手な装置に出迎えられる。舞台袖の2階部分は、左で電飾で彩られた風車が回り、右には青く光る象が控えている。開演前からワクワクさせられる舞台版『Moulin Rouge!: The Musical』の道具立てだ。

 バズ・ラーマン監督のミュージカル映画『Moulin Rouge!』が公開されたのは2001年(映画邦題には「!」が付いていない)。ニコール・キッドマンとユアン・マクレガーを主役に迎えた同作は、過去の物語に現代の意匠を持ち込んでみせるというラーマンお得意の手法が、洗練されたCG技術と共に炸裂。全編に流れる巧みにアレンジされたポップ・ミュージックに乗せて、前時代的なラヴ・ストーリーを新鮮に蘇らせてみせた。
 その翌年、ラーマンは舞台の演出家としてブロードウェイに登場。作品は、『Moulin Rouge!』の原型の1つとも言える、プッチーニの『La Boheme』。夫人であるキャスリーン・マーティンの手がけた装置デザインが、映画版『Moulin Rouge!』の美術同様に美しく、陶然とさせられたものだ。そして、その先に、いつの日かラーマン自身が持ってくるであろう舞台版を夢想した。

 が、今回『Moulin Rouge: The Musical』ブロードウェイ版を演出したのは、昨シーズン登場の『Beetlejuice』を手がけたアレックス・ティンバーズ。2010年の『Bloody Bloody Andrew Jackson』で頭角を現した人で、同作は第7代合衆国大統領を野蛮な愚か者として描いたパンク・ヴォードヴィルとでも呼びたいような野心作。その後も、『Rocky』『Peter And The Starcatcher』、そして『Beetlejuice』に到るまで、内容もさることながら、とりわけ視覚的に“濃い世界”を描いてきた。そういう意味では適役だろう。
 だが、当然だが、バズ・ラーマンとは感性が違う。装置(デレク・マクレイン)には明らかにラーマンに対するオマージュと思われる部分もあったりして、映画版の印象を受け継いではいるが、ティンバーズの演出はそこに留まらず、舞台ならではの新時代の『Moulin Rouge!』を作り出そうとしている。映画版の夢幻的な世界観に思い入れのある方は、そこは理解した上でご覧になった方がいい。

 逆に映画版のシャレたやり口をまんま引き継いでいるのが、楽曲の使い方。場面の状況に見合った内容の既成のヒット曲を、時には細切れメドレーとして繋いだりしながら、登場人物が心情吐露として歌うという、半ばギャグのような手法を踏襲。ある意味、曲名当てクイズのような使われ方を観客は大いに楽しんでいる。加えて、ビートを強化したディスコ的なアレンジも場を盛り上げる。エルトン・ジョンの「Your Song」をはじめとする映画版で使われていた楽曲に加え、後半で印象的に歌われるナールズ・バークレイの「Crazy」など、映画版より後のヒット曲が多用されているのも聴きどころのひとつだ。
 設定が劇場ムーラン・ルージュのショウだけに、ダンス場面も豊富。振付のソニア・テイエはブロードウェイ初登場だが、伝統から一歩踏み出した斬新さを目指しているのは演出のティンバーズ同様。その辺も舞台版ならではの面白さ。

 現時点で最大の話題作。この後さらにブレイクするかどうか注目だ。>