The Chronicle of Broadway and me#1051(Only Gold)

2022年11月@ニューヨーク(その9)

 『Only Gold』(11月27日14:00@MCC Theater Space)についての感想。

 『Only Gold』は、『In The Heights』『Hamilton』の振付で知られるアンディ・ブランケンビューラーの演出・振付による“ダンス・ミュージカル”……そう呼びたくなるほどダンスが大きな比重を占める作品だが、歌も豊富。
 作曲・作詞はイギリスのシンガー・ソングライター、ケイト・ナッシュ。脚本はブランケンビューラーとテッド・マラワー。

 今回の渡米では14本を観劇予定で、その内、現時点で2本が未見だが、おそらく今回のリストの中で、これが最も充実したパフォーマンスが繰り広げられた舞台ということにになると思う。
 『Hamilton』をご覧になった方ならおわかりだと思うが、あの、場面が変わっても途切れることなく続いていく目眩く(めくるめく)ようなダンスの奔流が、ここにもある。それも雄弁な表現として。
 ただし、話自体は少しばかり物足りない。ことに後半が。そういう意味では、やはり『Hamilton』の主要スタッフであるトーマス・カイル(演出)とアレックス・ラカモア(音楽監修・編曲)とが絡んで同じ劇場で上演された『The Wrong Man』と似た結果になってはいる。傑作になる一歩手前。
 とはいえ、ダンスを中心にしたパフォーマンスの素晴らしさは長く記憶に残るだろう。

 設定は1928年のパリ。舞台装置(デイヴィッド・コリンズ)にはアール・ヌーヴォーの香りが漂う。
 ドラマは3組の男女のカップルと幻の宝石を巡って展開する。3組のカップルとは、某王国の王と女王、その王女と宿泊先ホテルの従業員、宝石職人の息子とピアニストであるその妻。
 さる貴族との間で決まっている王女の結婚準備のためにパリを訪れた王族3人。気に染まない結婚を前に反抗的になっている王女。その影響なのか不機嫌に心を閉ざす女王。彼女をとりなそうと失われた思い出のネックレスを再現するために奔走する王。王は、かつて訪れた小さな宝石店を探す道案内としてホテルの若い従業員を1人連れ出す。探し当てた宝石店はすでに店主が亡くなっているが、その息子夫婦に出会い、ネックレスの再現を依頼する。自分は父のような宝石職人ではないと尻込みする夫だが、自信を持ってほしい妻は彼を鼓舞する。こうした諸々の全てが、いい方向に展開し、かつ、王に同道するホテル従業員が王女と知り合って恋に落ちるというオマケも付く。
 が、第1幕の終わりに、王が密かに呼び寄せた王女の婚約者がパリに現れることで破綻が始まる。

 ここまでもプロットとしては甘いが、特異な印象の女王(ロクサーナという名前からアレグザンダー大王が結婚したという中東の女王を連想させる)や、半ば少年のような印象の王女(映画『Fanny Face』のオードリー・ヘプバーンを思わせる)という、外見も目を惹く2人のキャラクターを中心に、総勢20人前後のダンサーが、クラシック・バレエからヒップホップに到る様々な手法を駆使したダンスで流れるように物語を表現していくのが、実にスリリング。
 後半は、ダンスによる表現の鮮やかさは衰えないが、前述したように展開は尻すぼみ。宝石職人夫婦の予期せぬ別れはあるものの、全体に深まることなく予定調和的に終わる。かすかに感じられるフェミニズムの要素をもう少し掘り下げることができればよかったのだが、と思ったりはする。
 ちなみに、(本格的には)踊らないのは、王と宝石職人の息子の妻とナレーター/歌手として登場する楽曲作者ケイト・ナッシュの3人だけ。残りは、みんな踊って、そして歌う。

 楽曲作者ケイト・ナッシュは1987年生まれ。音楽世界ではすでに実績のある人で、自身の作品の表面的な音楽性はエレクトロニクス風味のロック/ポップスだが、両親から影響を受けたらしく、背景には60年代から70年代、さらには90年代のブリットポップに到るまでの香りがある。この舞台では、そうした面も生かしつつ、本人が音楽以前に演劇志望だったというあたりの嗜好を加味しての、表情豊かな楽曲を提供している。

 ケイト・ナッシュ以外の主要キャストは、王役テレンス・マン(『Barnum』『Cats』『Rags』『Les Miserables』『Beauty And The Beast』『The Scarlet Pimpernel』『Lennon』『The Addams Family』『Pippin』『Tuck Everlasting』)、女王役カリーン・プランタディット(『The Lion King』『Saturday Night Fever』『Movin’ Out』『Come Fly Away』『After Midnight』)、王女役ゲイリー・ディアズ、宝石職人の妻役ハンナ・クルーズ、宝石職人役ライアン・ヴァンデンブーム(『Annie』『Something Rotten!』『Bandstand』『MJ The Musical』)、王女と恋に落ちるホテル従業員役ライアン・スティール(『West Side Story』『Newsies The Musical『Matilda The Musical』『Rodgers & Hammerstein’s Carousel』)。

 なお、先にちょっと触れた『Hamilton』のアレックス・ラカモアは追加編曲で、また、トム・キットがヴォーカル編曲で参加している。このあたりの世代のクリエイターたちには強い協力体制があるようだ。

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