The Chronicle of Broadway and me #1031(MJ The Musical)

2022年5月~6月@ニューヨーク(その3)

 『MJ The Musical』(5月25日14:00@Neil Simon Theatre)についての感想。

 マイケル・ジャクソンのミュージカルと言えば、2009年夏にロンドンで観た『Thriller Live』を思い出すが、全体が疑似ステージ・ライヴになっているあちらには、特定のマイケル役はいない。
 こちらは、1992年のロスアンジェルスのリハーサル・スタジオで「デンジャラス・ワールド・ツアー」の準備をするマイケルが、スタッフとのやりとりや、MTVの取材に刺激されて、それまでの半生を回想していくというスタイルを採っている。

 “禍福は糾(あざな)える縄の如し”。ジャクソン5に始まる商業的な成功、クインシー・ジョーンズと出会ってからの音楽的進化、革新的なダンスの創出、といった輝かしい面と、強権的な父親の下で大家族を養うために幼い頃から強いられてきた音楽ビジネス世界での息苦しい生活、という苦い面とが入り交じる回想。それが、現在進行形の、試行錯誤を繰り返して行きつ戻りつするリハーサル場面の、そこここに細かく入り込んでくる。
 その現在と回想の場面の替わり具合がスリリング。その理由のひとつは、替わり方に(装置も含め)多様なアイディアが盛り込まれているから。もうひとつの理由は、同じ役者が現在(リハーサル・スタジオ)と回想とで別の役柄に瞬時に入れ替わって演じることが多いから。ことに、父親役クエンティン・アール・ダリングトン(『Ragtime』『Cats』『Once On This Island』)と母親役アヤナ・ジョージは、それぞれリハーサル時点での主要スタッフとバック・シンガーを演じつつ、ほぼ演技だけで何度も巧みに過去の両親に“変身”する。
 回想部分は時間軸に沿ってはいるが、それでも複雑な構成になっている脚本を、マイケル・ジャクソンという稀有な存在の意義を再確認するような形でまとめ上げたのは、ストレート・プレイで2度のピューリッツァー賞を受賞しているリン・ノッテイジ(『The Secret Life Of The Bees』)。
 ……とドラマ部分は一定の評価ができるが、それでも、大きな見どころはやはりショウ場面になる。
 観客が一番盛り上がるのは、パフォーマンスがそっくりなことでアマチュアからブロードウェイのスターに抜擢されて現地ではすでに話題の、マイルズ・フロストによるマイケルのアクション+歌。が、それ以上に、振付クリストファー・ウィールドン(『Sweet Smell Of Success』『An American In Paris』)と、今回「Michael Jackson Movement」という名称でクレジットされている振付コンビ、リッチ+トーン・タラガが力を合わせたと思しい、フレッド・アステア、ニコラス・ブラザーズ、ボブ・フォッシーらとマイケルとの異種格闘技的ダンスをはじめ、集団でのダンス場面に趣向が凝らされていて観応えがある。脇役たちの奮闘ぶりに拍手。

 編曲デイヴィッド・ホルセンバーグ&ジェイソン・マイケル・ウェブ。
 演出も、振付のクリストファー・ウィールドンが担当。

 マイケル役は回想の中にも2人出てくる。ジャクソン5でデビュー時のリトル・マイケルは、ウォルター・ラッセル三世とクリスティアン・ウィルソンの交互出演(前者は2021/2022シーズンのメトロポリタン・オペラ最大の話題作『Fire Shut Up In My Bones』にも出演、印象に残った。今回観たのは後者だが、こちらもうまい)。成長してからのマイケルをマイルズ・フロストに負けない比率で演じるのが、テイヴォン・オールズ=サンプル。彼もブロードウェイ・デビュー。
 あと、MTVの記者役で出演したウィットニー・バショー(『The Bridges Of Madison County』)が、狂言回し的な役割で展開の要になっている。

 トニー賞では、ミュージカル作品賞、編曲賞、脚本賞、演出賞、振付賞、主演男優賞(フロスト)、装置デザイン賞、衣装デザイン賞、照明デザイン賞、音響デザイン賞、の10部門でノミネート。

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