The Chronicle of Broadway and me #629(Spider-Man: Turn Off The Dark)

2011年1月@ニューヨーク(その2)

 『Spider-Man: Turn Off The Dark』(1月14日20:00@Foxwoods Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<ご存知かと思うが、演出(共同脚本・仮面デザイン)が『The Lion King』の演出・仮面デザイン・衣装デザイン・人形デザイン、そして一部楽曲補作を手がけたジュリー・テイモア、楽曲がU2のボノとジ・エッジ、という話題作だが、昨年春にプレヴューを開始する予定でチケットを売り出すも秋に延期になり(結果、入手していた3月のチケットを手放す)、11月と発表されたプレヴューは予定より遅れて始まり(結果、チケットを予約していた11月19日の公演はキャンセルに)、その後も公演中に事故があったりして、1月に観たこの公演の後も正式オープン日を延期したりしている。そのゴタゴタ続きも話題。

 3ツ星評価で言えば、星1ツ半。後半持ち直すものの、第1幕はかなりかったるい。その理由の1つは、大掛かりな装置の転換とフライングの準備に時間がかかるからではないか。
 ギーク・コーラス(Geek Chorus)なる若者4人組の狂言回しは、そのつなぎの時間稼ぎに登場するように思えてならない(geek=オタク、と、ギリシア古典劇に出てくる“Greek chorus”をかけた造語か)。とにかく、彼らが出てくると流れがプッツリ切れる印象を受ける。一応、彼らギーク・コーラスは、スパイダーマンの活躍するコミック世界を客観視する存在として登場するのだが、はたして必要なのか。かなり疑問。
 さらに、そうやって時間をかけて準備して繰り出される大掛かりな装置とフライングが、それ自体は観るに値するが(フライングは予想を超えて複雑で派手な動きをする)、必ずしもミュージカル舞台の中で有機的に作用しているように見えない。少なくとも、『The Lion King』の動物を表わす装置や衣装の数々が舞台を豊穣にしたようには働いていない。フライングについて、さらに言うと、フライングに対応する役者の身体的技術はかなり高いと思うが、動きが早すぎて、その見事さが伝わってこないのも残念な印象。『Peter Pan』のフライングが(今の観客の目には素朴に映るだろうが、それでも)芸としての美しさを伴っているのと対照的だ。
 楽曲も、個別に聴けば別の印象を持つのかもしれないが、劇中にあっては、全体に一本調子に聴こえて記憶に残らない。
 全客席に詳細な項目のアンケート用紙が置いてあり、真剣な手直しが進行中であることを思わせる。正式オープン予定の3月15日が、その後また6月まで延長された。
 いずれにしても、チャンスがあれば、もう1度観てみたい。>

 というわけで観直すことになるのだが、それは6月の末のこと。なぜなら、正式オープンが6月14日だったから。プレヴューが半年以上続いたことになる。オープン時にはかなりの手直しが施されていたが、それについては改めて。(追記/正式オープン後の感想はこちら

 以下のクレジットは、このプレヴュー時点での、ということで。

 脚本ジュリー・テイモア、グレン・バーガー。
 演出ジュリー・テイモア。振付&空中振付ダニエル・エズラロウ。
 装置ジョージ・ツィーピン、衣装エイコ・イシオカ、の2人が2011/2012シーズンのトニー賞にノミネートされることになる。

 出演は、ピーター/スパイダーマン役リーヴ・カーニー、オズボーン/グリーン・ゴブリン役パトリック・ペイジ(『Dr. Seuss’ How The Grinch Stole Christmas!』『Dancing In The Dark』)という、後の『Hadestown』コンビを軸に、ジェニファー・ダミアノ(『Spring Awakening』『Next To Normal』)、T・V・カーピオ、マイケル・マルヘレン(『Titanic』『Kiss, Me Kate』『The Boy From Oz』『La Cage Aux Folles』)、ケン・マークス(『Mamma Mia!』)、イザベル・キーティング(『The Boy From Oz』)ら。日替わりのピーター/スパイダーマン役として、マシュー・ジェイムズ・トーマスの名前もある。
 Ensemble Aerialistsという役名で20人ほどクレジットされているのも、この作品の特徴。