The Chronicle of Broadway and me #292(Mamma Mia![2])

2002年5月@ニューヨーク(その3)

 『Mamma Mia!』(5月6日19:00@Winter Garden Theatre)について、「ヒネリのなさが際立つ」というタイトルで旧サイトに書いた感想。
 冒頭から、<気に入らないのは、「ブロードウェイでのヒットは望み薄なのではないか」という推測に反して、この作品がオープン以来半年間、とりあえずブロードウェイでヒットしていることだ。>と挑戦的(笑)。以下、続き。

<一昨年(2000年)の9月1日に観たウェスト・エンド版の安直な作りについては、こちらに書いた。
 改めて要点を抜き書きすると――、

 ①この作品の肝は、アバのヒット曲がガンガン歌われるところにある。言ってみれば、ミュージカル仕立てのアバの疑似コンサートのようなもの。
 ② お話は“他愛ない”と言って差し支えないだろう。むしろ、アバの楽曲の内容にふさわしい状況を作り出すのに都合のいいストーリーを(言葉は悪いが)でっち上げた、という印象。
 ③楽曲の基本的なアレンジは、あくまでオリジナルに近く、しかもオリジナルの魅力を超えないというカラオケ状態。シンセサイザー主体のその音色には繊細さがなく、音量は劇場サイズに比べて大きすぎる。
 ④楽曲の挿入のされ方も、前述したように、楽曲に合わせてストーリーを組み立てたのでは? と感じるぐらい安易。
 ⑤ダンスにしても、第2幕冒頭の幻想的ダンス・シーンが、力の入った演出ゆえに逆に異質に見えてしまうほど、この作品のミュージカル・ナンバーにはアイディアがない。
 ⑥もっとも、作品そのものに、「A New Musical based on the songs of ABBA」というサブタイトルが付いているのだから、とやかく言う方が野暮なのかも。出演者がひたすら気持ちよくアバ的に歌うのを聴かせていただくのが、この作品の楽しみ方ってもんなのだろう。

 以上のウェスト・エンド版に対するコメントは、そのまま今回観たブロードウェイ版に通用する。同じウィンター・ガーデン劇場で上演されていた『Cats』と違って、こちらはセットもウェスト・エンド版と同じだし。
 が、あえて言えば、やや皮肉を込めた最後の項⑥は、ウェスト・エンドならしようがないかというあきらめの下に書いたもので、ブロードウェイでの上演となると、そう簡単には割り切れなくなるのも事実。
 なぜなら、“コンサート的ノリ”を基調にした舞台作りはロンドン産ミュージカルの特徴の1つで(詳しくはこちら)、ウェスト・エンドでは、こうした安易な舞台作りは日常茶飯事。しかし、(仮に芸術性は問わないとしても)エンタテインメントとしての充実度を高めるためにひと工夫もふた工夫もするのが必然のブロードウェイに置いて観てみると、その粗雑な作りに改めて唖然とすることになるからだ。
 ことに、④の「楽曲の挿入のされ方」。芝居部分からショウ場面への転換はミュージカルで最も興奮する瞬間なのだが、『Mamma Mia!』にあっては、それはセンスのないダジャレを聞くような間の悪い瞬間に変わる。なにしろ、ドラマの状況に合わせて、何のヒネリもなく、単純に内容の合致するアバの楽曲が当てはめられていくのだから。しかも、例えば前もってメロディを聴かせておく、といった程度の初歩的な音楽的伏線すらない。
 楽曲の使われ方があまりに強引なので、観ている内に、これはもしかしたら高度なギャグなのかもしれないとさえ思うようになる。そうでなければ、こんな稚拙な作りのミュージカルが、このブロードウェイで上演されているはずがない。半ば冗談だが、ふとそんな気持ちにならないではないのが、『Mamma Mia!』オン・ブロードウェイだ。

 「総じて他愛ない舞台にあって、かろうじて芸を見せてくれるのが、ドナの仲間ロージーとターニャを演じる 2人の女優。」というのもウェスト・エンド版と同じ。
 ロージー役がトニー賞にノミネートされたジュディ・ケイ、ターニャ役がカレン・メイスン。はっきり言って、どちらも役不足(しつこくて申し訳ないが、役の方が役者の力量に対して不足、という意味)だが、けっして軽く流したりはせず、作品内での自分の役割を充分に理解して、能力をフルに発揮しつつ観客を大いに楽しませている。
 しかし、大熱演のドナ役、主演のルイーズ・ピトラと比べると、ケイやメイスンには余裕が感じられる。それは、役柄の違いであると同時に、やはりブロードウェイでの経験の差でもあるのかもしれない。逆に言うと、ピトラには、ブロードウェイに乗り込んできた者ならではの覇気があって、それが、ノリで押していく作品内容とピッタリ合っている、ということは言えそうだ。
 他の役者については、やはり、 「彼らに問題があるわけではなく、作品が彼らの芸を引き出す作りになっていないので、力量を知る機会がないということ」というウェスト・エンド版でのコメントをそのまま流用しておくが、これがブロードウェイ・デビューという若者が多いのは、ピトラ同様“ノリで押す”内容を考えての起用、ということか。

 ところで、いくらここでクサしたところで、現在ヒットしているという事実は動かない。
 しかし、ウェスト・エンド版を評する時に引き合いに出した『Saturday Night Fever』のブロードウェイ版も、初めはヒットしていた。けれども、今、その舞台について語る人はほとんどいない。『Mamma Mia!』も同じ運命をたどるかどうか。
 ぜひ、そうであってほしいと願ってやまないのだが。

 最後に、ちょっとした疑問を提出。
 この作品を日本で翻訳上演しようという動きがあるようですが、その場合、やはりアバのヒット曲は日本語で歌われるんでしょうか。♪踊る女~王~、とか。>

 中程で、「楽曲の使われ方があまりに強引なので、観ている内に、これはもしかしたら高度なギャグなのかもしれないとさえ思うようになる。」と書いているが、YouTubeで断片的な舞台映像を観ていると、確かに曲が始まる時に客が笑っている。劇場で観た時には「失笑」の類かと思っていたが、楽しそうに笑っている(笑)。やっぱり笑うよね、歌の意味がわかれば。場面への強引な合わせ方に。
 つまり、「半ば冗談」は、むしろ制作側の意図だったわけだ。少し責め過ぎたと反省(笑)。
 しかし、日本での翻訳上演では、その辺のところが観客に通じたのだろうか。友人に付き合って1度だけ観たことがあるが、よく覚えていない。「踊る女~王~」と歌ってなかったのは覚えているが。

 それにしても、この作品が15年近いロングランの大ヒットになった影響は小さくない。ウェスト・エンドでしか通用しなかったジュークボックス・ミュージカルが、ブロードウェイでも解禁になってしまったのは、この作品のせいだ。以降、必ずしも「いい意味」ではないブロードウェイの大衆化が進んでしまったと思う。

 演出のフィリダ・ロイドはロンドン版と同じ。映画版の第1作もそう。元々は映像畑の人のようだ。
 やはりロンドン発でブロードウェイに来た『Tina: The Tina Turner Musical』も彼女の演出。なるほど。

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