The Chronicle of Broadway and me #643(Spider-Man: Turn Off The Dark[2])

2011年6月~7月@ニューヨーク(その2)

 『Spider-Man: Turn Off The Dark』(06月30日19:30@Foxwoods Theatre)の正式オープン後の舞台について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。
 ちなみに、プレヴュー観劇時の感想はこちら

<最初のプレヴュー開始告知から1年以上、実際のプレヴュー開始からでも半年を経て、ようやく6月14日に正式オープン。プレヴューを観たのは1月だが、その後、短期間幕を下ろし、正式オープンに向けて、さらなる手直しをしていることが伝わってきていた。
 で、確かに変わった。大きく変わった。しかも、こちらの指示通りに(笑)。

 まず、プレヴュー観劇後の感想で、「はたして必要なのか」と書いた“ギーク・コーラス”なる若者4人組の狂言回しがいなくなった(4人の役者の名前が完全に消えている)。つまり、スパイダーマンをコミック世界内の話として見る外枠がなくなった。これで重層構造が1段階減った。
 さらに、プレヴュー時には、スパイダーマン誕生の背景として蜘蛛の神話(ギリシア神話に登場するアラクネの話)が執拗に描かれていたのだが(つまり、事実上、三重構造になっていた)、これの比重がかなり軽減された(本当は削除したかったのではないか?)。これで重層構造が、さらに軽くなった。
 こうした刈り込みの結果、物語が、悩める主人公(ピーター/スパイダー・マン)VS.心に傷を負った悪漢(オズボーン/グリーン・ゴブリン)の対決という構図にすっきりと収まって、あとは驚愕のフライングを含むアクションを楽しむだけ、という、わかりやすい作品になった。
 まあ、すっきりと収まってわかりやすくなればいいのか、という問題はあるが、わかりにくくてテンポが悪く楽しめない作品よりはいい、という他ない。最終的な評価が、以前と同じ星1ツ半だったとしても。
 当然のごとく楽曲にも変化があり、第1幕10曲、第2幕9曲という数は同じながら、入れ替え、削除、追加が行なわれ、特に2幕はかなり変わっている。

 ここまでの改変を可能にするには、やはり演出家(共同脚本)ジュリー・テイモアの降板が必須だったようで、正式オープン後のクレジットには、脚本に、プレヴュー時のテイモアとグレン・バーガーの他にロベルト・アギーレ・サカサの名が加えられ、実質演出家としてクリエイティヴ・コンサルタントの名目でフィリップ・ウィリアム・マッキンレイの名が載った。そして、ジュリー・テイモアはオリジナル演出ということになっている。

 ちなみに、観た6月30日夜公演は、開演前に「本日の公演はシステムの不調によりフライングが大幅カットされます」というアナウンスがあり、客席騒然。「14日以内なら再度観られる」という条件付きで始まった。
 と言っても、初めて観る客がほとんどだから、何がどうカットされているのかわからない。1幕はとうとう舞台上のアクションに終始したが、それでもみんな満足そう。もう今日は飛ばないのか、と思っていた2幕の後半になって、やおら悪役ゴブリンが客席上空を飛び始めた。なんだか、いつもより多く飛んでおります、な感じだったが、他のフライングを補う意味もあったのか。
 結局、この日のフライングはそれだけ。でも客は満足。そういうことなんだと思う。あってもいいけど、別になくても平気。それがこの作品のフライング。もっとも、こっちは1度観ちゃってますがね(笑)。
 実際には、オープニング後もプレヴュー時と同じくらいスパイダー・マンも飛び回っているそうです。>

 上記感想中に「こちらの指示通りに」と書いたのは、プレヴュー時に客席に置かれていた細かいアンケートに詳しく答えたから(笑)。

 脚本に加わったロベルト・アギーレ・サカサは、スパイダーマンの版元マーヴェル・コミックスやTV『Glee』等の仕事をしている人。ジュリー・テイモアに代わって舞台をまとめたと思しいフィリップ・ウィリアム・マッキンレイは『The Boy From Oz』の演出家。
 主要スタッフの変更でもう1人付け加えると、追加振付でチェイス・ブロックの名前が入っている。

 前回書き落としていたが、ジェブ・ブラウン((『Ring Of Fire』『High Fidelity』『Grease』『Romantic Poetry』)がヒロインの父親役で出演。オズボーン/グリーン・ゴブリンのアンダースタディでもあった。

 公演はドタバタしながら、意外にも2014年1月4日まで続くことになる。
 なお、CDでリリースされた音源『Music From Spider-Man Turn Off The Dark』は、完全なキャスト・レコーディングではなく、主要キャストにU2のボノやジ・エッジも加わったもので、舞台より曲数が少なく曲順も違っている。

 下のプレイビル画像は、左がプレヴュー時、右が正式オープン後。