てなもんや三文オペラ@パルコ劇場 2022/06/16 13:00

 『三文オペラ』(Die Dreigroschenoper/英題:The Threepenny Opera)というだけで個人的には観ようという気になる。それが日本を舞台にした改訂版ということになると、余計に観たくなる(最近だと昨年12月の『三文オペラ JAPON1947』@シアターグリーンBOX)。タイトルからわかるように、この『てなもんや三文オペラ』も日本が舞台の改訂版。しかも、作・演出が鄭義信ということになれば、もう必見。
 1928年初演のクルト・ヴァイル(作曲)×ベルトルト・ブレヒト(作詞・脚本)の傑作“音楽劇”『三文オペラ』と、1960年代に“お茶の間”を沸かせた香川登志緒(脚本)×澤田隆治(演出)の大人気TV番組『てなもんや三度笠』とが混じり合ったらどうなるのか。あるいは、『てなもんや』はタイトルだけで中身は混じり合ってはいないのか。もちろん、いないと思うが(笑)、それでも、(たぶん)舞台が大阪になってどう生まれ変わっているのか。想像するだけで楽しい。
 ……てなことを考えながら観た『てなもんや三文オペラ』の舞台は、てなもんや三度笠』の藤田まことの名啖呵「耳の穴から指突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたる」を元に巷に流布した「ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたろかい」というセリフこそ出てくるものの、実際に混じり合っているのはそちらではなく、開高健の小説『日本三文オペラ』や梁石日(양석일)の小説『夜を賭けて』だった。

 大阪砲兵工廠跡の鉄クズを盗んでカネに換えるアパッチ族の首領。それがマック(舞台は日本だが登場人物たちの名前は原作のまま)。
 大阪砲兵工廠は大日本帝国陸軍の兵器工廠で、今の大阪ビジネスパークから森ノ宮に到る一帯を敷地とするアジア最大規模の軍事工場だった。敗戦前日の1945年8月14日、B-29の大規模な空襲に遭い壊滅。「空襲による砲兵工廠構内での死者は382人と報告されている。ただ、隣接地域を含めた犠牲者の総数については分かっていない。」(ウィキペディア情報)
 不発弾が多数あり危険、として放置された大阪砲兵工廠跡に侵入し鉄クズを盗む窃盗団が昭和30年から34年にかけて頻出。主に在日韓国人や在日朝鮮人だったと言われる彼らを、新聞が「アパッチ族」と呼んだ。『日本三文オペラ』『夜を賭けて』は、それを題材にした小説。
 これが、劇中では詳細には描かれない『てなもんや三文オペラ』の背景。

 もう1つ重要になってくるのが、マックと警察署長ブラウンが戦友だったという過去。絶望的な南方戦線で2人の間に何があったのか。こちらは劇中で少しずつ明らかにされていき、マックという人間が垣間見えてくる。

 という2つのことを念頭に置いて、ぜひ観に行ってください。今後観る方のために、説明はここまで。
 普通の『三文オペラ』ではありません。原作とは別の意味でガツンと来ます。
 役者はみな面白い。バンド演奏は録音のようだが、舞台に登場する朴勝哲のアコーディオンやピアノの演奏が味があって、いい感じ。

 東京公演は6月30日で終わりましたが、地震の被害で会場が使えなくなった宮城公演を除く、福岡、大阪、新潟、長野の公演はこれからです。スケジュールはこちら

コメントを残す