The Chronicle of Broadway and me #850(American Psycho)

2016年3月~4月@ニューヨーク(その6)

 『American Psycho』(3月31日20:00@Gerald Schoenfeld Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<今シーズン、リヴァイヴァル版の登場した『Spring Awakening』の楽曲作者(作曲)として、2006年にブロードウェイ・デビューを果たしたシンガー・ソングライター、ダンカン・シークの新作で、ミュージカル・ブラック・コメディとでも呼びたくなる作品。今回は作詞もシークが手がけている。
 原作はブレット・イーストン・エリスの同名小説で、脚本はロベルト・アギーレ=サカサ。

 舞台ミュージカル版は、まず、2011年に主演に今回のブロードウェイ版のベンジャミン・ウォーカーを据えてニューヨークでワークショップが行なわれたらしい。それが諸般の事情で、結局2013年暮れにマット・スミス主演でロンドンで幕を開ける。
 諸般の事情の1つは、ヴィデオ・デザインのフィン・ロスの存在ではないだろうか。
 ロスの手がけた舞台にストレート・プレイ『The Curious Incident Of The Dog In The night-Time』があるのだが、この作品、2012年にロンドンのロイヤル・ナショナル・シアターで幕を開けた後、翌年ウェスト・エンドに移ってオリヴィエ賞を総なめにし、昨シーズン登場したブロードウェイ版もトニー賞各賞をガッツリ獲った。ロスはこの作品で、舞台の三方の壁と床を方眼状のディスプレイで埋め尽くし、主人公の少年の天才的数学脳を表わす驚くべき近未来空間を出現させている。
 『American Psycho』は、完全にその拡大再生産。今回の舞台は、’80年代後半のバブル最盛期マンハッタンに生きる主人公のエリート・ビジネスマン、パトリック・ベイトマンの現実と妄想が混濁する脳内のように見える。

 この近未来的なイメージの(それでいて実は近過去であるところの)誇張された装置+照明+音響+ヴィデオの創り出す“刺激”こそが、この舞台の“売り”だと考えると、最大の見どころは、やはりダンスか。なかでも、無機質なビートに乗った女性陣の痙攣的なダンスが、照明との連動による視覚効果で目を引く(振付リン・ペイジ)。
 そうしたヴィジュアルに呼応するように、音楽もテクノ的サウンドで彩られる。’80年代後半という時代設定から言っても、むべなるかな、だが、それがシークの書く楽曲を魅力的に聴かせるのに貢献しているとは思えないのが残念なところ(編曲もシーク自身)。
 さらに言えば、劇中、時代設定当時のヒット曲、ティアーズ・フォー・フィアーズ「Everybody Wants To Rule The World」、ニュー・オーダー「True Faith」、フィル・コリンズ「In The Air Tonight」、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「Hip To Be Squar」、ヒューマン・リーグ「Don’t You Want Me」も登場し、シークの楽曲の印象はますます分が悪い。

 主演のベンジャミン・ウォーカーは、心を病んだターミネーター的な演技で強い印象を残す。劇中、血がバンバン出るが、彼の前回の主演作が『Bloody Bloody Andrew Jackson』だったから、というわけではもちろんない(笑)。>

 出演は他に、ヘレン・ヨーク(『Bullets Over Broadway)、アリス・リプリー『The Who’s Tommy』『Side Show『James Joyce’s The Dead』『The Rocky Horror Show』『The Baker’s Wife』『Next To Normal』『A Civil War Christmas』『A Christmas Memory』)、ジェニファー・ダミアノ(『Spring Awakening』『Next To Normal』『Spider-Man: Turn Off The Dark』)、ドリュー・モアレイン。

 演出はストレート・プレイの仕事が多いルパート・グールド。