The Chronicle of Broadway and me #1002(Tina: The Tina Turner Musical/The Lightning Thief: The Percy Jackson Musical)

2019年10月@ニューヨーク(その2)

 『Tina: The Tina Turner Musical』(10月23日20:00@Lunt-Fontanne Theatre)と『The Lightning Thief: The Percy Jackson Musical』(10月27日18:30@Longacre Theatre)についての観劇当時の感想。
 

 2019/2020シーズン秋のブロードウェイ新登場ミュージカル2本について、こちらにリポートを書きました。読んでみてください。
 『Tina: The Tina Turner Musical』6月にロンドンで、『The Lightning Thief: The Percy Jackson Musical』2017年3月にオフの劇場で観た作品。なので、できれば観ないですませて、その時間、他の作品にあてたかったのですが、観なきゃ観ないで気になるという(苦笑)。
 なお、『The Lightning Thief: The Percy Jackson Musicalは1月5日までの限定公演となっています。
 

 [追記]

 掲載から時間が経ったので、上記リンク先(MEN’S Presicous WEB)にある2作品についての記事をこちらに転載しておきます(<>内)。
 『The Lightning Thief: The Percy Jackson Musical』の方をメインにした記事なので、タイトルは「映画化もされた大ヒット冒険ファンタジー小説の舞台ミュージカル化はかなりの変化球」となっていました。

<本題に入る前に、ブロードウェイ版がプレヴューを開始した『Tina: The Tina Turner Musical』について簡単に。
 7月初めに「ロンドンからやって来る『ティナ』はブロードウェイの荒波を乗り切れるか!?」で、ロンドン版の印象を報告したが、ブロードウェイ進出にあたり構成や演出に手を加えられた形跡は特にない。ただ、ロンドンでは交替後で観られなかったオリジナル・キャストのティナ役エイドリアン・ウォーレンが、躍動的な魅力を発揮していて好印象。
 全体にテンポよく運んでいるように感じたのは、『Bring It On The Musical』(2012年)→『Shuffle Along, Or The Making of the Musical Sensation of 1921 and All That Followed』(2016年)とブロードウェイで実績を重ねてきた彼女の力だろう。
 一見に値する。

 さて、『The Lightning Thief: The Percy Jackson Musical』だが、原作は2005年から2009年にかけて出版された全5巻から成る『Percy Jackson & the Olympians』(パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々)シリーズの第1巻『The Lightning Thief』(盗まれた雷撃)。同シリーズは、ウィキペディアによれば、35か国以上で出版され、7,000万部近く売れているというベストセラー小説。日本でも全巻翻訳出版されている。映画化も2作品あり、タイトル(原題)は小説の第1巻、第2巻と同じ。
 ……ということなのだが、ミュージカル版は脚色が面白い。
 現代のアメリカを舞台に、ギリシア神話の神と人間との間に生まれた子供たちがモンスターと戦いながら冒険していく、という壮大な話であるにもかかわらず、舞台版の役者は主人公パーシー・ジャクソン役の他には6人しか出てこない。彼らが入れ替わり立ち代わり様々な役を演じるというオフ・ブロードウェイのノリなのだ。
 実際、この作品は2017年にダウンタウンの小さな劇場でオープンしている。その時にも観たが、チープな手作り感を生かした冗談めかした舞台で、まさかブロードウェイにやって来るとは思わなかった。今回の仕様も、ほぼオフの時のまま。そこが逆に楽しい。

 ちなみに、脚本のジョー・トレイス、演出のスティーヴン・ブラケットは、いずれも昨シーズンの話題作のひとつで、やはりオフからオンに進出した『Be More Chill』のスタッフ。作品のパロディ的感触がうなずける陣容だ。
 ブロードウェイ初登場となるロブ・ロキッキの楽曲はロック・ビートに乗った軽快なもので、アクション場面での大仰なアレンジも含め、作品の方向性と有機的に結びついている。ノリがよすぎて、アクションの続く第二幕中盤では睡魔に襲われる瞬間もあるが、それは時差ボケのせいだと思われる(笑)。

 原作小説は、筆者リック・リオーダンが、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と難読症を併せ持つ息子ヘイリーに読み聞かせるために、ヘイリーが興味を抱くギリシア神話の続きを意図して書かれたという。そのため、主人公も含め、この作品に登場する子供たちも少なからずそうした障がいを抱えている。
 そのあたりを取こぼさずに描こうとしているのが、このミュージカルの存在意義のひとつだろう。

 ブロードウェイ作品としては贅沢感が足りないかもしれないが、ディスカウント・チケットが常時出ているようなので、トライしてみる価値はある。>