[My Favorites] 『Songs For A New World』World Premiere Recording(CD)

 今やニューヨーク演劇界を代表する楽曲作者となったジェイソン・ロバート・ブラウンの最初のミュージカル作品が『Songs For A New World』。その(準)オリジナル・キャスト・レコーディング・アルバムがこれ。
 舞台は未見。なので、アルバムを鳥羽口に、この作品の主にデータ的なことを挙げておきます。今週土曜日開催予定(2022年11月5日20:00~)のスペース「『パレード』で知られるジェイソン・ロバート・ブラウンのミュージカルの世界」の参考になれば幸いです。

 『Songs For A New World』の初演版は、1995年、オフ・ブロードウェイのWPA(Workshop of the Players Art Foundation)劇場で10月11日から11月5日まで上演。
 残念なのは、この上演期間とぴったり重なる1995年10月13日から19日までニューヨークにいて観劇していたこと。Wi-Fiはおろかネット環境のまるで整っていない情報の乏しい時代だったにせよ、あるいはジェイソン・ロバート・ブラウンという名前をまるで知らなかった頃にせよ(世に出る初の作品ですから)、見つけて閃いて観に行くのがシアター・ゴアーズの才能。悔やまれる。
 閑話休題(笑)。

 「二十歳でニューヨーク・シティに来た時には、デカいブロードウェイ・ミュージカルを書くんだと決心していた。ただひとつの問題は、この街での知り合いが中華料理店の配達のおにいちゃんしかいなかったことだ。」というのは、このアルバムのライナーノーツに書いてあるジェイソン・ロバート・ブラウン自身の言葉。
 それに続く本人の発言を信じるなら、『Songs For A New World』は次のような経緯で実現する。
 ブラウンはピアノ・バーで働きながら楽曲を書き溜めていたが、その店に来て彼の演奏を気に入ってくれた客の中にデイジー・プリンスがいた。最終的に『Songs For A New World』の創案者(conceived)/演出家としてクレジットされることになるデイジー・プリンスは、ハロルド・プリンスの娘。ブラウンは彼女に自分の楽曲の舞台化の相談をする。するとプリンスは、楽曲全体をまとめる(方向性を観客に提示する)オープニング・ナンバーを書くことを提案したという。
 苦心の末に書き上げたオープニング・ナンバー「The New World」は、基本的には、人生の一瞬先には新しい世界が待っている、ということを歌っているようだ。冒頭のこのナンバーが、中間部と終盤にも他の楽曲の中に挿入される形で登場して、全体をまとめる役割を果たしている。
 ブラウンの「書きたい気持ち」が溢れ出しているように感じられる、躍動的でヴァラエティ豊かな楽曲群が魅力的。

 こうして『Songs For A New World』は、3年の時を経て完成し、上演に漕ぎつける。
 前述のように、創案・演出デイジー・プリンス(彼女は『The Last Five Years』初演も演出)。

 出演者は4人。
 その年の春に始まっていた『How To Succeed In Business Without Really Trying』に途中から参加してブロードウェイ・デビューすることになるブルックス・アシュマンスカス(『Dream』『Little Me』Gypsy『Martin Short: Fame Becomes Me』『Promises, Promises』『Bullets Over Broadway『Something Rotten!』『The Prom』)。『In The Heights』に出演して脚光を浴びるアンドレア・バーンズ(『On Your Feet!』『Smart Blonde』)。ブラウンの次作『Parade』にも起用されるジェシカ・モラスキー(『Dream』『Sunday In The Park With George』)。『Kinky Boots』のスター、ビリー・ポーター(『Miss Sigon』『Five Guys Named Moe』『Grease!』『Radiant Baby』『Shuffle Along, Or The Making of the Musical Sensation of 1921 and All That Followed』)。逸材が集まっていたわけだ。
 ただし、ビリー・ポーターは「契約の関係」(ウィキペディア情報)でアルバムの録音には参加していない。最初に「(準)オリジナル・キャスト・レコーディング・アルバム」と書いたのは、そういう意味。
 代わりに加わったのがタイ・テイラー。複数のミュージカルに出演しているが、むしろ今では、ソウル・ロック・バンド、ヴィンテージ・トラブルのリード・シンガーとしての方が知られているだろう。

 このキャスト・アルバムは公演の翌年の1月25日と2月1日にスタジオで録音されている。
 公演でも録音でも、ピアノを弾いているのはジェイソン・ロバート・ブラウン自身。ちなみに、最後の曲では、デイジー・プリンスの提案を受けて、一節を歌ってもいる。

 ニューヨークでは2018年6月に、シティ・センター「アンコールズ!」の「オフ・センター」のシリーズとしてリヴァイヴァル上演されている。

 (追記)『Songs For A New World』は、「ソング・サイクル」と呼ばれる、楽曲を歌い継いでいくスタイルのレヴュー(ソング・サイクル=文学的・音楽的な関連性をもって構成された歌曲集)。

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