The Chronicle of Broadway and me#1056(A Beautiful Noise, The Neil Diamond Musical)

2022年11月@ニューヨーク(その14)

 『A Beautiful Noise, The Neil Diamond Musical』(11月30日20:00@Broadhurst Theatre)についての感想。

 『A Beautiful Noise: The Neil Diamond Musical』ってタイトルは、題材から言っても『Beautiful: The Carol King Musical』と似すぎている気がするのだが、そこは気にしなかったのだろうか。あるいは狙いなのか。
 ニール・ダイアモンドは、キャロル・キング同様、ニューヨークの楽曲出版社のスタッフ・ソングライターとしてプロのキャリアをスタートさせ、その後シンガー・ソングライターとして成功している。年齢もほぼ同じ。ダイアモンド1941年ブルックリン生まれ、キャロル・キング1942年マンハッタン生まれ。共にユダヤ系だ(劇中、ダイアモンドというペンネームに対して「ジューイッシュでダイアモンドね」という反応がギャグとして出てくる)。

 おそらく日本ではキャロル・キングの方が有名だと思うが、母国アメリカでのニール・ダイアモンドの名声はキャロル・キングに劣らない。と言うか、ソロ歌手としてのヒット曲はダイアモンドの方がはるかに多い。なので、そこそこ年齢層の高い観客が集う劇場は、しばしば軽いシング・アロング状態になる(笑)。
 そうした反応を期待しての舞台化だと思うが、ダイアモンドの人生には、残念ながら(あるいは本人にとっては幸いにも)、それほど劇的な事件があるわけではない(『Piece Of My Heart: The Bert Berns Story』の主人公バート・バーンズのバング・レコーズと契約してのゴタゴタが最大の盛り上がりか)。つまり、ドラマとしては盛り上がりに欠ける。
 そこで工夫したのが語り口。現在のダイアモンドがセラピーのためにインタヴューを受けている、という設定にして、その過程で過去の出来事を思い出していく。思い出すきっかけとしてセラピストが用意したのが「The Complete Lyrics Of Neil Diamond」というダイアモンドの楽曲の歌詞を網羅した本で、このアイディアによって、楽曲にまつわる形で過去を再現することが自然な流れになる。と同時に、過去に対する現在のダイアモンドの見解を加えることもできて、物語が重層的になる。
 でも、まあ、それによってものすごく面白くなるわけではない。あの楽曲誕生の背後にはこんなエピソードがあったのか、とか、あのヒット曲が作られた頃にはダイアモンド本人はこんな状況下にいたのか、とかがわかる程度。
 結局、最終的な見どころは、ニール・ダイアモンドのヴァーチャル・ライヴ、ということになる。

 それを担う過去のニール・ダイアモンド役はリヴァイヴァル版『Les Miserable』でジャヴェールを演じたウィル・スウェンソン(『Lestat』『110 In The Shade』『Hair』『Priscilla Queen Of The Desert』『Little Miss Sunshine』)がメインなのだが、観た回は同役ダブル・キャストのサブの方であるニック・フラディアーニが出演。それでも充分ニール・ダイアモンドらしかったから、スウェンソンなら往年のダイアモンド・ファンでも満足のいく出来なのだろうと想像する。逆に、そうしたソックリ感が重要になる作りなところに作品の限界を感じもするが。
 もっとも、セットの簡易さなどから推測すると、ツアーに出やすいことを念頭に作られている気がするから、ブロードウェイでのロングランは制作陣もそれほど期待しているわけではないのかも。もちろん当たるに越したことはないだろうが。

 役者は他に、現在のニール・ダイアモンド役マーク・ジャコビー(『Show Boat』『Ragtime』『Man of La Mancha』『Sweeney Todd』『Elf』)、脇で二役を演じて期待通り味のあるところを見せるのがマイケル・マッコーミック(『Kiss Of The Spider Woman』『1776』『Marie Christine』『Gypsy』『The Pajama Game』『Dr. Seuss’ How the Grinch Stole Christmas!』『Curtains』『Marrying Meg』『Elf』『Fly By Night』)。

 楽曲はもちろん作曲・作詞ニール・ダイアモンド。脚本のアンソニー・マッカーテンは映画『Bohemian Rhapsody』の脚本家で、これがブロードウェイ・デビュー。
 演出マイケル・メイヤー(『Triumph of Love』『Side Man』『You’re a Good Man, Charlie Brown』『Thoroughly Modern Millie』『Spring Awakening』『10 Million Miles』『American Idiot』『Everyday Rapture』『On a Clear Day You Can See Forever』『Hedwig And The Angry Inch』『Head Over Heels』『Funny Girl』)。振付スティーヴン・ホゲット(Once『Peter And The Starcatcher』『Rocky』『The Last Ship』『The Curious Incident Of The Dog In The Night-Time『Harry Potter And Cursed Child』)。
 プロデューサー/オーケストラ編曲として『Jersey Boys』のボブ・ゴーディオの名前が記されている。

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