The Chronicle of Broadway and me #779(Fly By Night)

2014年6月@ニューヨーク(その6)

 『Fly By Night』(6月14日14:30@Playwrights Horizons)は、少し悲しいけど、しみじみする、ユニークな語り口のミュージカル。

 舞台は1964年11月から翌1965年11月までのニューヨーク。
 主な登場人物は、ダフネとミリアムという姉妹と、ハロルドという青年とその父。女優志願のダフネは、妹と一緒であれば許すという母親の条件をのんで、渋るミリアムを連れてニューヨークに向かう。母が亡くなったハロルドは葬儀の後、ニューヨークのアパートメントで父と2人で遺品の整理をしている。そんな人々の偶然の出会いと別れの物語。終盤に、有名な1965年11月9日の北米大停電が発生し、運命のいたずらが起こる。
 狂言回しのナレーターも登場し、時にロマの占い師に扮して物語に介入したりもしながら、彼らの物語を、時空を行きつ戻りつしつつ自在に紹介していく。それが先に書いた「ユニークな語り口」の由縁。
 話の中核にあるのは、ハロルドと別々に出会ってしまう姉妹の、ある種の三角関係だが、それとは別に、亡くした妻を追想するハロルドの父の感傷のドラマが背後に流れ、妻の遺品にあった『La Traviata』(椿姫)のレコードが醸し出す空気が舞台全体を覆っていく。周辺の個性的なキャラクターの登場の仕方も含め、重層性のある構成が舞台に厚みを与えている。

 創案キム・ローゼンストック。
 楽曲・脚本は、プレイビルには「Written by」としか書かかれていないけれど、他に楽曲作者の記述がないので、おそらくこの3人なのだろう、ウィル・コノリー、マイケル・ミトニック、キム・ローゼンストック。作劇的にも音楽的にも魅力的な楽曲が並ぶ。『La Traviata』の要素を生かした後半の数曲は、ことに印象的。
 演出キャロリン・キャンター(『Arlington』)。振付サム・ピンクレトン。
 

 ダフネ役は後に『Frozen』でアナを演じるパティ・ミュリン(『Xanadu』『Lysistrata Jones』)。ミリエル役アリソン・ケイス(『Hair』『Hands On A Hardbody』)。ハロルド役アダム・チャンラー=ベラット(『Next To Normal』『Peter And The Starcatcher』)。ハロルドの父役ピーター・フリードマン(『Ragtime』)。ナレーター役ヘンリー・ストラム(『Titanic』)。他に、マイケル・マッコーミック(『Kiss Of The Spider Woman』『1776』『Marie Christine』『Gypsy』『The Pajama Game』『Dr. Seuss’ How the Grinch Stole Christmas!』『Curtains』『Marrying Meg』『Elf』)、ブライス・ライネス(『Hair』『Leap Of Faith』『First Date』)。