The Chronicle of Broadway and me #1034(Funny Girl)

2022年5月~6月@ニューヨーク(その6)

 『Funny Girl』(5月27日20:00@August Wilson Theatre)についての感想。

 舞台版の方が断然面白い、と思った。映画版が凡作だってのもある。舞台初演から間もない若き日のバーブラ・ストライサンドの姿が写し込まれていなければあえて観なくてもいい、とさえ思う(もちろん、バーブラが出ている場面は全て観る価値があるが)。
 とにかく、舞台版『Funny Girl』には、いい楽曲と舞台ミュージカル表現の楽しさがぎっしり詰まっている。

 とはいえ、舞台版が“傑作”というわけではない、とも思った。このリヴァイヴァル版が、ということではなく、作品そのものが。同じジューリー・スタイン作曲の5年前の“傑作”『Gypsy』と比べると。
 背景となる時代は20年ほどズレるが、共にショウ・ビジネスで成功を収めた女性の半生を描く2作品。バーレスク時代にスターになったジプシー・ローズ・リーの『Gypsy』と、それ以前のヴォードヴィル時代の大スターだったファニー・ブライスの『Funny Girl』。いわゆるバックステージもので、フローレンツ・ジーグフェルドが出てくるのも共通している(姿を見せるかどうかの違いはあるが)。
 が、比べると、『Gypsy』を永遠の傑作たらしめている、背後に流れるショウ・ビジネスの冷徹な香りが、『Funny Girl』にはない。全体の感触は、作曲家が同じせいもあるのだろうが、よく似ている。が、最終的に「せつないラヴ・ストーリー」に落とし込まれる『Funny Girl』の方が、明らかに“甘い”。そこが、この作品の愛すべきところでもあり、もの足りないところでもある。

 『Funny Girl』のブロードウェイ初演は1964年。作曲ジューリー・スタイン、作詞ボブ・メリル。脚本イソベル・レナート。2002年9月にニュー・アムステルダム劇場で開かれた一夜限りのコンサート・ヴァージョンを観ているが、その感想から初演の解説部分を引くと次の通り。
 「3年を超えるロングランを記録し、1968年の映画版もヒットしている。バーブラ・ストライサンドの出世作として知られるが、トニー賞では、彼女の主演女優賞も含めて8部門でノミネートされるものの、同シーズンに『Hello, Dolly!』がいたせいで、受賞ゼロに終わっている。」

 ブロードウェイでのリヴァイヴァルは、その初演以来初めて。クローズから数えても55年ぶりになる。長らく再演されなかった理由をバーブラ・ストライサンドの不在に求める声も聞くが(そりゃバーブラで観たいだろうが)、このリヴァイヴァルを観て、本質はそこにはなく、原因は前述した「せつないラヴ・ストーリー」の“古さ”だと思った。
 魅力的で才能もあり優しいが、破滅型である男。彼を愛した主人公。その感傷の物語が“時代がかって”見えるのは致し方ないところ。おそらく初演時から、その危うさを孕んでいたはずで、それを、強力な主演者(及び周辺のキャラクター)の個性で彩り、魅力的なドラマに見せることに成功した、ということだろう。
 だからバーブラ・ストライサンドが称賛されるわけで、そういう意味では、ジュディ・ガーランド版『スタア誕生』(A Star Is Born)と成功の構図がよく似ている。

 今回のファニー・ブライス役ビーニー・フェルドスタインは、ベット・ミドラー版『Hello, Dolly!』でブロードウェイ・デビューした人だが、バーブラとはまた別の個性があり、充分に魅力的(若干、歌のエコー感が気になりはしたが、声質をバーブラと比較して云々しても仕方ないだろう)。

 今回のリヴァイヴァルのために脚本をハーヴェイ・ファイアスタイン(『La Cage Aux Folles』『Legs Diamond』『A Catered Affair』『Newsies The Musical』『Kinky Boots』以上ブロードウェイ・ミュージカル脚本)が改訂しているが、本質に関わる直しはないように思えた。もっとも、こちらは注意散漫なので、どなたかの研究を待ちたい。
 演出マイケル・メイヤー(『Triumph of Love』『Side Man』『You’re a Good Man, Charlie Brown』『Thoroughly Modern Millie』『Spring Awakening』『10 Million Miles』『American Idiot』『Everyday Rapture』『On a Clear Day You Can See Forever』『Hedwig And The Angry Inch』『Head Over Heels』)。振付エレノア・スコット(『Mr. Saturday Night』)。

 役者陣が魅力的。
 ファニーの夫となるニック役ラミン・カリムルー(リヴァイヴァル『Les Misérables』『Anastasia The Musical』)、ファニーの気丈な母ミセス・ブライス役ジェイン・リンチ(TV『Glee』)、ファニーの才能を見出す振付家兼ダンサーで素晴らしいタップを見せるエディ役ジャレッド(発音はジェアードが近いと思うが)・グライムズ(『After Midnight』『Holler If Ya Hear Me』)、ファニーのご近所さんでミセス・ブライスと共に素敵なコーラスを聴かせるミセル・ミーカー役デブラ・カードラとミセス・ストラコッシュ役トニー・ディ・ブオーノ(『The Boys from Syracuse』)、付き人エマ役エフィー・アーデマ(『The Bridges of Madison County』)他。

 トニー賞では、助演男優賞(グライムズ)でノミネート。