The Chronicle of Broadway and me #304(The Boys From Syracuse)

2002年9月@ニューヨーク(その3)

 『The Boys From Syracuse』(9月21日20:00@American Airlines Theatre)については、こちらに「ラウンダバウト劇場製作らしい手堅いリヴァイヴァル」と書いたが、実のところ、特に面白かったという記憶はない。

 リチャード・ロジャーズ(作曲)×ロレンツ・ハート(作詞)×ジョージ・アボット(脚本)による1938年初演のブロードウェイ・ミュージカルで、原作はシェイクスピアの『The Comedy Of Errors』(邦題:間違いの喜劇)。25年後の1963年にオフでリヴァイヴァル上演されて、500回公演を記録している。
 ちなみに、ブロードウェイでのリヴァイヴァルは、これが初めて。

 あまり面白く思わなかった理由のひとつは、過去に観た同趣向の舞台、『A Funny Thing Happened On The Way To The Forum』『Scapin』に比べて、おとなしく感じたからだと思う。
 これら3作は、大元はいずれも古代ローマの劇作家プラウトゥスの作品。ドラマが緊密でない分、スラップスティックなコメディとして捉えた時に魅力が発揮される、というのが個人的理解。スコット・エリスの演出は、そこが物足りなかった(その点については『A Funny Thing Happened On The Way To The Forum』にも感想で不満を述べているが、それ以上に、ということ)。

 もうひとつの理由としては、作品そのものが、ミュージカルの古典としては興味深いが、やはり古びて見える、ということがある。
 シティ・センターの「アンコールズ!」シリーズなら、そうした(あまり観る機会のなかった)古典を改めて楽しむ場という側面があるから、それも許容範囲として受け止められるが(実際、5年前の1997年に同シリーズで上演されている)、ブロードウェイでのリヴァイヴァル上演となると、さすがにそうした“鑑賞会”的なノリだけでは満足できなくなる。なにがしかの“今日性”を求めるところが、観客(である自分)にはある。新しさということではなく、今の時代に蘇らせる意味。それが欲しいという気持ち。
 脚本は初演版を元にニッキー・シルヴァーが改稿(New book)、とクレジットにあるが、その「New」な案配が、こちらの思う“今日性”と無縁な方向だったのだと思われる。

 そういう風に考えると、良質なリヴァイヴァル作品を上演し続けてきたラウンダバウトだが、挑戦的な姿勢で作られた作品は、(ストレート・プレイは観たことがないので)ミュージカルに限って言えば、1998年の『Cabaret』と、2004年に登場する『Pacific Overtures』ぐらいしか思いつかない。しかも、前者は1993年ロンドン版の、後者はごぞんじの通り2002年新国立劇場版の、それぞれリメイクで、ハナからラウンダバウトが製作したものではない。
 思い起こせば、ラウンダバウトのリヴァイヴァル・ミュージカルは、元々はオリンピア劇場内クリテリオン・センター・ステージ・ライトという小劇場で期間限定上演されていて、後発のシティ・センター「アンコールズ!」シリーズに似た性格を持っていた。それが、前述の『Cabaret』がブロードウェイの劇場で当たったあたりから、より観光客向けにシフトしていくようになる。この『The Boys From Syracuse』は、その転換期の“どっちつかず”な作品と言えるかもしれない。
 いずれにしても、観客としてのこちらの感じ方が、個人的な劇場経験値の積み重ねや時代の趨勢の中で変わってきていることもあって、なにかと中途半端に見えたのだろう。

 古代ローマ時代。容姿だけでなく名前まで同じな双子が2組いて、それぞれ幼い頃に別れ別れになり、その後、兄同士、弟同士で主従関係になっている、という“奇想天外”な設定のストーリーについては、各自あたられたい(笑)。ネットですぐに出てきます。

 ロジャーズ&ハートの書いた楽曲には、スタンダートになっている「Falling in Love with Love」「This Can’t Be Love」が含まれる。なお、このリヴァイヴァルでは、初演にあった楽曲が3曲削られ、1928年のロジャーズ&ハート作品『Present Arms』の有名曲「You Took Advantage Of Me」が加えられている。

 役者として記憶に残るのは、従者の方の双子役、リー・ウィルコとチップ・ザイエン。味のあるコメディ・リリーフ2人。

 結局、このリヴァイヴァルは、プレヴューひと月、本公演ふた月で幕を下ろしている。

 [追記]
 この原稿を書くにあたり、いろいろ調べていたら、『The Boys From Syracuse』の通しの舞台映像に出会った。カナダはオンタリオのストラットフォード・シェイクスピア・フェスティヴァルで1986年に上演されたもので、同年12月26日にCBC(カナダ放送協会)で放映された時の映像らしいが、これが面白い。
 画質は悪いですが、一見の価値ありです。演出ノーマン・キャンベル。

 映像はこちら

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