The Chronicle of Broadway and me #138(Scapin/Shapiro & Smith)

1997年1月@ニューヨーク(その6)

 ミュージカル以外に観たプレイとダンス公演の感想。と言っても、中で書いているが、ダンス公演の方は、いろいろあって、かなりウトウトでした。

 『Scapin』(1月11日19:00@Roundabout Theatre)は、『スカパン』と読む。<モリエールの書いたコメディだが、大元は、主演がネイサン・レインからウーピー・ゴールドバーグに代わって続演中の『A Funny Thing Happened On The Way To The Forum』と同じく、紀元前の作家タイタス・マキウス・プラウトゥスの作品らしい。>という導入で始まる、当時の感想。なので、最初に出てくる「ほぼ同じストーリーを持つこの2つの舞台」というのは上記2作品を指す。

<古代ローマの奴隷が、口八丁手八丁で主人らをだまして自由を得ようとする。そのために起こるドタバタの大騒ぎ。
 ほぼ同じストーリーを持つこの2つの舞台は、本質がスラップスティックだという点でも似ている。役者の動きと演出の捌きが命だ。

 その役者と演出をこなすのがビル・アーウィン。
 映画やTVにも数多く出演しているのでご存知かもしれないが、ブロードウェイでは、デイヴィッド・シャイナーと2人で『Fool Moon』というパントマイムというか道化師(クラウン)のショウを成功させ、再演を重ねている。
 そう、この人、クラウン芸が身に染みついている、あるいはクラウン魂が肉体に宿っている。そんな風な動きを見せる人だ。体がバネと蛇腹で出来ているかのような。
 その動きの芸にすっかり魅せられていたので、今回あえて、このコメディを観に出かけたわけだ。

 いやあ、すごいのなんの。みんなして動く動く。
 特に終盤はサイレント映画よろしく、全員が、休む間もなしの追いつ追われつ状態に突入。役者の出し入れのタイミングも見事で、大いに笑わせてもらった。

 中に2人組の警官が出てくるのだが、これがキーストン・コップスそのまま。と言っても、「これらのコップスも、フランスのゴーモンやパテの喜劇の警官たちからの<頂き>である」(小林信彦「世界の喜劇人」晶文社)らしいが、とにかく、絵に描いたような強面のメイクアップで恐ろしげなBGMに乗って現れるという徹底ぶり。
 そのほか、舞台で今何をやっているかを説明するボードも登場し、「Chase」とか、言わずもがなのことを客に教えたりする。
 本の挿し絵のエッチングをそのまま拡大コピーして貼り付けたようなセットといい、舞台全体がかなり戯画化されているのは確か。言ってみれば、観客は(上質の)トゥーン・タウンへ迷い込んだようなものだ。
 『A Funny Thing Happened On The Way To The Forum』はスラップスティック度の低さゆえに時代とのズレを感じさせたのだが、ここまでやれば文句なし。

 アーウィンの奴隷仲間を演じたクリストファー・イヴァン・ウェルチの動きにも感心。
 BGMは巨大パイプオルガンに見せかけた(とすぐにわかる)ハモンドオルガンで、舞台上で芝居進行を観ながら絶妙の呼吸で演奏を聴かせたのはブルース・ハールバット。>

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 『Shapiro & Smith』(1月12日19:30@Joyce Theatre)は、<若々しいダンス・カンパニーで、快活な動きを見せて楽しかった。>と書きながら、その後は、ウトウトした言い訳を長々と書いている。ネットがない時代のあたふたする様子が面白いので、載せておきます。

<まず、実はこの日、昼間、ベース・アンサンブルという珍しいジャズのコンサート(日本人ピアニスト、クニ三上氏ゲスト出演)を聴きに出かけ、夜は52丁目に移ったヴィレッジ・ゲイトの『A Brief History Of White Music』というショウを観に出かけた。ところが、店に入ったら、なんだか様子が違う。訊いてみると、申し訳ないが今日は出し物が変更になったのだ、と言う。
 あわててホテルに戻り、新聞をチェックして、速攻、地下鉄に飛び乗りジョイス劇場まで出かけたわけだ。
 しかし、無理なスケジュールで行動したことに加え、冒頭のナンバーが不幸にも、エリック・サティだったものだから大変。たちまち睡魔の海へ……。
 って、言い訳でした。
 そう言えば、客席に堀内元氏の姿が見えました。>

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