The Chronicle of Broadway and me #236(The Bomb-Itty Of Errors)

2000年3月@ニューヨーク(その3)

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 『The Bomb-Itty Of Errors』(3月18日17:00@45 Bleecker)について、「ス“ラップ”スティック・ミュージカル」というタイトルで旧サイトに書いた感想です。

<オフで上演されている(知る限り世界初の)本格的ラップ・ミュージカル『The Bomb-Itty Of Errors』が楽しい。
 内容は、シェイクスピア『The Comedy Of Errors』(翻題:間違いの喜劇)の現代版で、元々詩的だと言われるシェイクスピアの作品が、現代的ポエトリー・リーディングとも言えるラップによってスピーディによみがえった。

 『The Comedy Of Errors』とは。
 昔々、同じ両親から生まれた2組の双子がいた。彼ら4人は、幼い頃に離ればなれになったために、お互いのことを全く知らない。でもって、なぜか、双子でない方の2人ずつがシラキュースとエフィサスという街に、それぞれ主従関係で暮らしている。そのシラキュースに住む2人が、母親と兄弟を探して旅する内にエフィサスにやって来ることから起こる、勘違いによる大混乱。

 というわけで、これ、ごぞんじロジャーズ&ハートが1938年に発表したミュージカル『The Boys From Syracuse』(邦題:シラキュースから来た男たち)の元ネタだ。でもって、シェイクスピアが参考にした、さらなる元ネタは、『A Funny Thing Happened On The Way To The Forum』『Scapin』の元ネタ同様、紀元前の作家タイタス・マキウス・プラウトゥスの作品らしい。
 確かに設定がよく似ていて、ラップという目新しい意匠を取り払って観れば、伝統にのっとったスラップスティック・コメディであることがわかる。舞台上にいくつかある出入口を使って絶妙のタイミングで役者が登退場、件の双子たちが出会いそうで出会わないという作りなど、まさに定石。
 しかし、上記2作品よりはるかに安上がりな舞台である『The Bomb-Itty Of Errors』が、イキのいい笑いという点でそれらより上を行っている理由の1つは、2組の双子はもちろん、その妻や義妹、父、召使いなどの全役を4人の出演者で演じてしまっていることにある。すれ違いのおかしさに、早替わりの面白さが加わっているわけだ。

 時代を移し替えて新しい脚本を書き、かつ演じているのは、ジョーダン・アレン=ダットン、ジェイソン・カタラーノ、GQ(ジーキュー)、エリック・ワイナー。いずれも若いが、コメディ演技も確かで、スラップスティックの動き・呼吸が、ラップ同様血肉化されている印象。単なる思いつきだけで作り上げた舞台でないことがわかる。
 それを支えるのが、作曲&DJ担当のJ.A.Q.(ジャック)。舞台左上方のDJブースで演技を見ながら、演奏及びMCで舞台にグルーヴを与え、会場を煽り、時には演技に参加する。その臨機応変な1人オーケストラは、舞台ミュージカルになくてはならない自在なノリを見事に生み出している。

 ラップという手法で古典的コメディに新たなリズムを与え、現代的スピード感を持ったミュージカルとしてよみがえらせた『The Bomb-Itty Of Errors』。こうして本場で鍛えられた作者=役者たちによってイキイキと演じられているのを観ると、新奇さを超えた新時代ミュージカルの可能性をはらんでいるのがわかる。『Noise/Funk』のような歴史観はないが、画期的なミュージカルであることは間違いない。
 日本のミュージカル関係者が安易に模倣しないことを祈る。>

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