The Chronicle of Broadway and me #1039(The Bedwetter)

2022年5月~6月@ニューヨーク(その11)

 『The Bedwetter』(5月28日14:00@Linda Gross Theater)についての感想。

 いつも通り詳細を調べずに観に行ったが、もらったプレイビルを見て喜んだ。ビビ・ニューワースが出ている!

 タイトルは「おねしょをする人」の意。
 夜尿症に悩む10歳の少女。その背景には、彼女が誕生する以前の、とある事件がきっかけでバラバラになり始めて、崩壊に向かっているような家族間の緊張関係があって……。というシリアスな話を、表面的には辛辣かつユーモラスに描いたミュージカル。
 楽曲、脚本、演出、いずれも工夫が凝らされ、役者も充実していて、とても面白かった。

 元になったのは、このミュージカルの作詞と脚本を共同で書いているサラ・シルヴァーマンの同名書籍(「The Bedwetter: Stories Of Courage, Redemption, And Pee」)で、その中身は、「Saturday Night Live」等で知られるスタンダップ・コミックでもある彼女の、15歳まで実際に夜尿症だったという告白を含む自伝。

 時は1980年12月(これは劇中で起こる、ある有名な事件によって明らかになる)に始まる。所はニューハンプシャー州ベッドフォード。
 転校先での主人公サラの自己紹介で始まって(担任教師に渋面を作らせるような品のないギャグを飛ばすサラの一風変わったキャラクターがわかる)、彼女は同級生たちに受け入れられるだろうかというサスペンス①があり、受け入れられた後に遊びに行った同級生の家に泊まらされそうになるサスペンス②があり(この時点で観客にはサラの夜尿症がわかっている)、泊まらされてしまってヤッちまったのがバレそうになるサスペンス③があり、それをウルトラCの外部要因で回避するものの、1幕最後に思わぬ油断から結局は同級生たちにバレてしまって幕間へ、という展開が見事。
 その合間に、両親、年の離れた姉、父方の祖母がサラとの関係性を交えながら紹介されていき、ユダヤ人家族であることやジェフリーという名の兄弟がいたらしいことがわかってくる。
 2幕では、夜尿症がバレて鬱になってしまったサラに家族全員が向き合うことで、様々な問題が改めて浮き彫りになり、その解決のためにそれぞれが行動を始め、状況が少しずつ動いていく。

 全体に「Saturday Night Live」のコント的なノリがあり(脇に出てくる強烈な個性のキャラクターたちは完全にそのスタイル)、そうした“ふざけた”表現でシリアスで繊細な状況を描くことによって絶妙なバランス感が生まれ、深刻になり過ぎずに、とはいえスリリングに、ドラマが進む。なので観客は、大いに笑いつつ、主人公たちに自然に深く感情移入していく。
 ひねった陽性の楽曲が多い中、ジョニ・ミッチェルを連想させるバラードが印象に残るのも、そうした作品の性格を象徴している気がする。

 シルヴァーマン以外の主要スタッフは次の通り。
 作曲・共同作詞がファウンテンズ・オブ・ウェイン(バンド)のメンバーとしても知られるアダム・シュレジンガー(『Cry-Baby: The Musical』)。共同脚本がジョシュア・ハーモン。演出アン・カウフマン。振付バイロン・イーズリー。クリエイティヴ・コンサルタントの名目でデイヴィッド・ヤズベクの名前もある。

 出演は、サラ役ゾー・グリック(『Frozen』に途中出演でブロードウェイ・デビュー、2020年オフの『Unknown Soldier』の演技が印象的だった)、母親役は『Frozen』エルサ役で知られるケイシー・レヴィ(『Hair』『Ghost: The Musical』『Les Miserable』『Caroline, Or Change』)、父親役ダーレン・ゴールドスタイン(『Bloody Bloody Andrew Jackson』)、祖母役ビビ・ニューワース(!)、姉役エミリー・ジマーマン。
 強烈だった脇役は、リック・クロム(『The Goodbye Girl』『Footloose』『Urinetown』)、ローレン・マーカス(『Be More Chill』)、アシュリー・ブランシェット(『Annie』『Beautiful The Carole King Musical』『Frozen』)。

 作曲・作詞のアダム・シュレジンジャーは2020年4月にCOVID-19の合併症で亡くなっていて、この作品は彼に捧げられている(ヤズベクの役割は、シュレジンジャー没後の音楽的な作業を手伝ったということかもしれない)。

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