The Chronicle of Broadway and me #1026(Unknown Soldier)

2020年2月@ニューヨーク(その8)

 『Unknown Soldier』(2月22日20:00@Playwrights Horizons)は、2017年に亡くなった楽曲作者(作曲・作詞)マイケル・フリードマン(『Gone Missing』『Saved』『This Beautiful City』『Bloody Bloody Andrew Jackson』『The Fortress Of Solitude』)の最後の作品ということになるのだろうか(未完のままになった作品は多数あるらしいが)。
 過去作同様、ユニークで、不思議に心に迫って来るミュージカルだった。
 フリードマンと詞を共作し、脚本を書いたのは、演出家として活躍している(『Walmartopia』『Godspell』『Tamar Of The River』『Grease』)ダニエル・ゴールドスタイン。

 第一次世界大戦(1914年~1918年)にまつわる、ある家族の物語。戦争の悲劇を婉曲的に描いたラヴ・ストーリーでもある。
 時は現代。30代後半の女性エレンが、幼い頃一緒に暮らしていた祖母の遺品を整理していて1枚の写真を見つけるのが発端。古い雑誌(1920年発行)に載っていたその写真には、若き日の祖母ルーシーが見知らぬ兵士と親し気に写っていて、キャプションには「無名兵士は真実の愛を見つけたのか」とあった。そして、その兵士が誰かと祖母に尋ねたが答えてもらえなかった幼い頃の記憶がエレンの脳裏に蘇った。第一次世界大戦で亡くなったと聞いている祖父ではないはず。2人の関係を知りたいと思ったエレンは、大学の図書館員であるアンドリューにネット上で連絡をとって調査の協力を求める。
 以降、現在のエレン、ルーシーと暮らしていた頃の幼いエレン、そして、若き日のルーシーが生きる3つの時代が舞台上に現れ、エレンたちの調査の推移と共に時の流れを行きつ戻りつしながら、それぞれの時代の中で、見えていなかった事実が少しずつ浮き彫りになってくる。
 終盤のミステリアスでロマンティックな展開は素晴らしい。3つの時間が1つになる場面には『The Hours』と共通するカタルシスがある。

 この作品の面白いのは、語り口が変化していくところで、序盤でエレンから相談を受けたアンドリューが語り手として観客に全体の事情を説明するのだが、そのアンドリューは、やがて物語の中に深く入ってきて、客観的でなくなってくる。そのあたりから物語のゆくえを追う第三者的立場の語り手がいなくなり、観客の心が揺らぐ。それが”謎”への興味をいっそうかき立てると同時に、実際に起こったであろうことと登場人物の願望とが入り交じり始め、物語の深みが増していく。

 マイケル・フリードマンの楽曲は、およそ一世紀に及ぶ過去と現在を行き来する内容を反映して時代ごとに作風を変えているが、全体には過去寄りで、ノスタルジックな雰囲気が漂う。ヴォードヴィル調のユーモラスな楽曲など、いいアクセントになっている。ダニエル・ゴールドスタインと共作した(フリードマン没後にゴールドスタインが補填したのか?)詞も含め、完成度が高く、繊細で豊か。

 出演は、エレン役マーゴ・サイバート(『Tamar Of The River』『Rocky』『Ever After』『Octet』)、幼いエレン役ゾー・グリック(後に『The Bedwetter』)、ルーシー役は50年代から活躍し演出家でもあるエステル・パーソンズ(『Nice Work If You Can Get It』)、若き日のルーシー役カースティン・アンダーソン(『My Fair Lady』)、アンドリュー役エリック・ロックトフェルド(『King Kong』)、医者役トム・セズマ(『Man Of La Mancha』『The Times They Are A-Changin’』『A Man Of No Importance』)他。

 演出トリップ・カルマン。振付パトリック・マッカラム(『The Band’s Visit』)。

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