The Chronicle of Broadway and me#1044(Kimberly Akimbo)

2022年11月@ニューヨーク(その2)

 『Kimberly Akimbo』(11月22日19:00@Booth Theatre)についての感想。

 作曲ジーニーン・テゾーリ(『Thoroughly Modern Millie』『Caroline, Or Change』『Shrek The Musical』『Violet』『Fun Home』『Soft Power』)による新作ミュージカル。
 2021年11月から2022年1月という渡米など一般人には思いもよらない時期に、オフのリンダ・グロス劇場(アトランティック・シアター・カンパニー)で期間限定上演され、ドラマ・デスク賞を受賞した作品。なので、ブロードウェイ進出は待望の出来事。今回の渡米で一番観たかった舞台だが、その期待を裏切らない仕上がりだった。

 作詞・脚本はデイヴィッド・リンゼイ=アベアー(『High Fidelity』『Shrek The Musical』)で、彼が2000年に書いた同名プレイのミュージカル化。ではあるが、感触はテゾーリ作品の『Fun Home』に近い。
 シリアスな題材を、ユーモアと苦さが絶妙にブレンドされた表現で興味深く(ある意味、面白く)見せていくあたり。元がリンゼイ=アベアーのプレイだとしても、明らかにテゾーリ作品に共通の色合いが強く醸し出されていると思う(実際、プレイとは少し人物設定やなんかが変わってもいるようだし)。

 設定は1999年(プレイビルには「子供たちが携帯電話を持つ前」と書いてある)のニュージャージー、バーゲン郡(ハドソン川を挟んでニューヨーク市の西隣)。
 主人公のキンバリー(キム)は劇中で16歳の誕生日を迎える年齢だが、プロジェリア(早期老化症)のために容貌が老人化している。そして一般に同疾患は若年死を招きやすい。そんな繊細な状況にいる彼女を取り巻く登場人物は、酒浸りの父、第2子を妊娠している母、犯罪絡みで問題を起こす叔母(母の妹)、4人のお気軽な、しかしキムとは距離を置くクラスメイト、そしてキムのボーイ・フレンド的存在になる、少し変わり者のセス。
 ざっくり説明すると、セスが現れたことで、これまで波風立てずに淡々と生きてきたキムが人生に前向きになって行動を起こし、そのためにかえって家族間の歪みも露わになっていく、というストーリー。叔母が登場(帰還)してから非日常的な方向(犯罪)に話が進むのが意外かつ愉快で面白く、終わり方が悲劇でもなく、かと言って大団円でもないところもいい。
 家族やセスはもちろんだが、クラスメイトたちも、それぞれ丁寧に個性が描き込まれていて、それが物語全体を豊かにしている。
 セットのアイディアも豊富で効果的(装置デイヴィッド・ジン)。舞台の“額縁”が家型に切り抜かれているのは「家庭」とか「家族」の枠を象徴しているのだろう。

 キム役にヴィクトリア・クラーク(『How To Succeed In Business Without Really Trying』『Titanic』『The Light In The Piazza』 『Sister Act』『Rodgers + Hammerstein’s Cinderella』『Gigi』)を配したのが素晴らしいし、オファーを受けたクラークも見事。終盤の“変装”シーンにはいろんな意味が込められていそうだ。
 父親役スティーヴン・ボイヤーはもっぱらプレイ畑の人。母親役アリ・マウズィー(『Cry-Baby: The Musical』)の歌は本作の聴きどころの1つ。叔母役ボニー・ミリガン(『Head Over Heels』)はキャラクターも歌も迫力満点。セス役ジャスティン・クーリーのオトボケぶりはいい味。そのクーリーとクラスメイト役中の3人の計4人がブロードウェイ・デビュー。

 演出のジェシカ・ストーンは役者として『Grease!』『How To Succeed In Business Without Really Trying』『Anything Goes』等に出ていた人で、一本立ちの演出家としては、これがブロードウェイ・デビュー。振付ダニー・メフォード(『Bloody Bloody Andrew Jackson』『The Bridges Of Madison County』『Fun Home』『Dear Evan Hansen』)。

 オフ作品に相応しい小さめの劇場(『Next To Normal』もオンはここ)。2階の後ろの席からでもよく見えます。