The Chronicle of Broadway and me #327(My Life With Albertine)

2003年3月@ニューヨーク(その4)

 『My Life With Albertine』(3月8日19:30@Playwrights Horizons)の元は、マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」(À la recherche du temps perdu)。長大な同作の全7篇中、第2篇から第6篇に出てくる若い女性アルベルチーヌ(劇中では英語読みでアルバーティン)に関する部分を再構成してミュージカルに仕立てた作品。と言っても、ご多分に漏れず「失われた時を求めて」を読破したことはなく、ちくま文庫版を箱買いして安心している派なので、調べるとそういうことがわかった、というだけだが(笑)。
 脚本は、やはり有名な文芸作品の舞台ミュージカル化で、同じプレイライツ・ホライズンズで上演され、後にブロードウェイに進出した『James Joyce’s The Dead』を手がけたリチャード・ネルソン。
 作曲は『Dream True』のリッキー・イアン・ゴードン(偶然にも『Dream True』には「My Life With Vernon Dixon」という副題が付いていた)。作詞はネルソンとゴードンの共作。
 演出もネルソン。振付ショーン・カランとのコンビは『James Joyce’s Dead』と同じ。

 若き日の主人公を魅了し、翻弄したあげく、突然亡くなってしまうアルバーティンを演じたのは、ケリ・オハラ。前年の『Sweet Smell Of Success』の繊細な役で強い印象を残した直後。
 語り手(主人公)が、昨年8月に惜しくも亡くなったブレント・カーヴァー(『Kiss Of The Spider Woman』『Parade』)。
 若き日の主人公は、この時点ではリヴァイヴァル版『Into The Woods』の牛役しか観たことがなかったが、2009年の『Memphis』でトニー賞主演男優賞にノミネートされるチャド・キンボール。
 他に、直前まで『Hollywood Arms』の語り手にして成長したヘレンを演じていたドナ・リン・チャンプリンや、『Side Show』『James Joyce’s Dead』『The Full Monty』のエミリー・スキナーなど、充実したキャストが揃っている。

 概観に「『James Joyce’s The Dead』に似た(実際、趣向も似ている)、渋いが面白い舞台」と書いているが、前述したように『James Joyce’s The Dead』とは実際に主要スタッフが被っている。似ている「趣向」というのは、登場人物の1人がナレーターを兼ねていることを言っているのだろう。
 『James Joyce’s The Dead』ほどの評価を得ていないようなのは、元ネタが巨大すぎたせいか。

 今回、この原稿を書くにあたってキャスト・アルバムを聴き直したが、全体の印象がソンドハイム的な気がした。それも、『A Little Night Music』に近い感じ。理由の1つには、設定が20世紀初頭のヨーロッパ、ということがあるのかもしれない。悪くない出来。