The Chronicle of Broadway and me #289(Noises Off)

2002年3月@ニューヨーク(その7)

 Noises Off(3月23日20:00@Brooks Atkinson Theatre)は、劇作家マイケル・フレインの書いた1982年初演のロンドン産コメディ。
 ブロードウェイ初演は1983年で、約1年半のロングラン。最初のブロードウェイ・リヴァイヴァルがこの2001年に始まった公演で、11か月近く続いている。

 観たのはパティ・ルポンとフェイス・プリンスが出ていたからだが、これが実に面白かった。
 『うら騒ぎ』という邦題を付けた翻訳公演も行なわれていたので、ごぞんじの方も多いかと思う。第1幕で演じられる芝居(のリハーサル)を、第2幕で裏から観る。だから、「うら」騒ぎ、という命名なのだろう。原題の「noises off」に「舞台裏の物音」という意味もあるらしいし、たぶん「から騒ぎ」にかけてもある。でも、ピンと来る? ま、いいか。『カーテンコール/ただいま舞台は戦闘状態』とかって映画邦題より数段シャレてるってことで(1992年ピーター・ボグダノヴィッチ監督)。

 ドアがたくさんある2階建ての据え置きセット(イギリスの郊外にある別荘という設定)で演じられる、ドアからの役者の出入りのタイミングが命、みたいな芝居の本番前のドレス・リハーサル(通し稽古)の場が第1幕。これが、まるで準備できていなくて、しかも人間関係が恋愛模様も含めて入り乱れ、演出家込みで大混乱。……という、これだけでも笑えるコメディになっている(やたらサーディンにこだわるのもおかしい)。
 で、第2幕。そのひと月後、別の劇場。旅公演に出ているという設定だが、これが文字通りの舞台裏。上演中の2階建てのセットの裏側の様子が演じられる。どうやら一座の混乱の度合いが増しているらしく、手違いが次々に起こり、それがエスカレートしていく。それにつれて、“舞台に出ていない”役者たちが、収拾しようとしたり、慌てたり、怒ったりするうちに、しだいに動きが早くなり、(舞台裏なだけに)声を出さないサイレントのスラップスティック・コメディになっていく、という仕掛け。ここで笑いのピークが訪れる。
 最後の短い第3幕は、第2幕から約2か月後。旅公演も終わりに近づいている。第1幕と同じ表向きのセット。ここは、芝居がどれだけ破壊されているかを観客が確認する場。それでも役者たちは、なんとか体裁を保とうと右往左往するが……。

 このリヴァイヴァル版の演出はイギリスのジェレミー・サムズで、元はロンドン産。2000年にロイヤル・ナショナル劇場で上演され、ウェスト・エンドに移った後、ブロードウェイにやって来たようだ。
 最初に書いたように、パティ・ルポンとフェイス・プリンスが出演(個人的には夢の共演)。他に出ていたのは、プリンスと一緒に『Guys And Dolls』に出ていたピーター・ギャラガー、この前に『The Green Bird』に出ていて、この後『The Drowsy Chaperone』『Curtains』に出てくるエドワード・ヒバート、『My Favorite Year』『Proposals』のケイティ・フィネラン(トニー賞助演女優賞受賞)。あと、未見だが、この舞台の直前に短期間上演されていたプレイ『The Invention of Love』でトニー賞主演男優賞を獲ったリチャード・イーストンというヴェテランも出ていた。

 ちなみに、2015年暮れにプレヴューを開始した2度目のブロードウェイ・リヴァイヴァルは翌年3月半ばでクローズ。短命に終わっている。稀代のコメディエンヌ、アンドレア・マーティンが出ていたのに、なぜだろう。観ておけばよかったな。

 下の写真は、『Noises Off』のプレイビルに挟み込まれていた、劇中劇『Nothing On』のプログラム。8ページもある凝ったもので、楽しい。