The Chronicle of Broadway and me #921(The Play That Goes Wrong/Girl From The North Country)

2018年1月@ロンドン(その5)

 当時ブロードウェイでも上演中だったロンドン産のプレイと、この年の秋にニューヨークに渡るボブ・ディラン楽曲のミュージカルについて。
 

 『The Play That Goes Wrong』(1月28日19:00@Duchess Theatre)はミュージカルではなくストレート・プレイ。2012年にオールド・レッド・ライオン劇場というパブに併設されたフリンジシアター(ニューヨークで言うところのオフ劇場)で初演。国内ツアーの後、2014年にウェスト・エンドに進出し、翌年のオリヴィエ賞で最優秀新作コメディ賞を受賞している。上にも書いたように、2017年春にブロードウェイでも幕を開け、2019年1月まで上演。その後、オフのニュー・ワールド・ステージズに拠点を移し、2023年春現在も上演中の人気作。
 以下、旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<ロンドンの劇場は日曜夜はほとんど閉まっていてミュージカルの選択肢がなかったので、やむなく……と言いつつ半分は楽しみに選んだのがこれ。

 同じイギリス産のコメディでも、『Noises Off』の洗練には及ばない。ジェイムズ・コーデン主演の下世話な『One Man, Two Guvnors』とはテイストが似ているが、こちらの方が野暮ったい。
 とはいえ、笑える。
 ブロードウェイ版もそこそこ当たっているようだが、演出の感触は同じなのかな。気になる。>

 脚本ヘンリー・ルウィス、ジョナサン・セイヤー、ヘンリー・シールズ。
 演出マーク・ベル。

 ロンドン版が本家とはいえ、オリジナル・キャストはそのままブロードウェイに渡ったようで、すでに1人も残っていなかった。
 

 『Girl From The North Country』(1月29日19:00@Noel Coward Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<昨年秋にオールド・ヴィク劇場に登場した作品。その時にも渡英を考えたのだが、宿代が高い季節だったのと、他に観るべきミュージカルが見当たらなかったので諦めた。
 その公演が好評だったのだろう、幸いウェスト・エンドの劇場に移ってロングランを始めたので、宿代の安いこの時期に観に来たしだい。

 ボブ・ディランの既成楽曲を使って作られた、その意味では“ジュークボックス・ミュージカル”と呼ぶべき作品だが、成立過程が興味深く、そもそもは脚本家コナー・マクファーソンにボブ・ディラン側から打診があって始まった企画らしい。そのあたりの事情がプログラムにも、マクファーソンへのインタビューとして書かれている。
 熟慮の結果マクファーソンが選んだ作品の舞台は、ディランの生誕地ミネソタ州デュルース。時はディランの生まれる1941年より前、大恐慌の傷跡深い1934年。
 とある宿の食堂に集う人々の群像劇。それぞれ解決できない問題を抱えたまま、彼らは現れ、去っていく。

 ディランの楽曲は、セリフとナレーションの狭間で渦巻き、時に彼らの心情を代弁し、時に彼らを叙事的に描く。そうしたユニークな使われ方の中で、楽曲の内包するスピリチュアルな趣が際立つ。
 ディランの楽曲が無名の歌として改めて世に解き放たれ、救済を求めて彷徨う魂たちに呼応する。そんな場面を目撃した気のする舞台だった。

 現地時間の4月8日に2018年オリヴィエ賞が発表され、素晴らしい歌を聴かせてくれたシーラ・アティム(宿屋の娘)と、エキセントリックな少女のように見える風変わりな宿屋の妻を演じたシャーリー・ヘンダーソンが、それぞれ助演女優賞と主演女優賞を受賞した。>

 やはりオリヴィエ賞(主演男優賞)にノミネートされた宿の主人役キアラン・ハインズの印象も強く心に残る。

 演出もコナー・マクファーソン。
 芝居の途中で役者たちがマイク・スタンドに向かい、あるいは楽器を演奏して歌が歌われる、という独特のスタイルが、上の感想に書いた「ディランの楽曲が無名の歌として改めて世に解き放たれ、救済を求めて彷徨う魂たちに呼応する」というイメージを生んだと思う。

 この年の秋にオフ・ブロードウェイ版が開幕。2020年2月にはブロードウェイでも幕を開けることになる。

The Chronicle of Broadway and me #921(The Play That Goes Wrong/Girl From The North Country)” への3件のフィードバック

コメントを残す