The Chronicle of Broadway and me #558(The Tin Pan Alley Rag/Danny And Sylvia: The Danny Kaye Musical)

2009年6月@ニューヨーク(その4)

 オフの伝記的ミュージカル2本をまとめて。

 『The Tin Pan Alley Rag』(6月19日20:00@Laura Pels Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<アーヴィング・バーリンとスコット・ジョプリンの楽曲によるミュージカル、という予備知識からノスタルジックなショウを予想していたが、実際は、ティン・パン・アリーのオフィスで楽曲持ち込みの応対をするバーリンの元にジョプリンが現れる、という、実在の作曲家2人を登場させるドラマ仕立て。
 ヒット曲作りに徹するバーリンと、『Porgy And Bess』に先行するようなラグタイム・オペラを実現させようとするジョプリン。2人の論争めいた対話は、やがて互いの人生に踏み入っていき……。
 若きバーリンの勤める楽曲事務所をジョプリンが訪れた可能性はあるようで、バーリンの出世作となった「Alexander’s Ragtime Band」の導入部はジョプリンが持ち込んでいた楽曲から採った、とジョプリン自身が後に友人に語ったという事実もあるらしい。そうした虚実ない交ぜのスリリングな展開と、ジョプリンのオペラの部分的再現(おそらく、これが主眼)とで興味深く見せていく。
 ラウンダバウト製作だが、彼らがオリジナル・ミュージカルを作るのって、もしかして初か。>

 上演されたのはラウンダバウトの運営する46丁目の地下にあるオフ劇場。ここでの公演には挑戦的なものが多い。これも人種問題や著作権問題を孕んだ作品。

 バーリンとジョプリンの楽曲以外に、劇中で楽曲出版社が楽譜を売るために演奏する楽曲といったような設定でオリジナル楽曲が使われていて、それらを主に、作曲ブラッド・エリス、作詞(脚本も)マーク・サルツマンのコンビが書いている。この2人はTVでの仕事が多いようで、エリスはピアニストとして『Glee』に出演してもいる。
 演出スタッフォード・アリマ(『Alter Boyz』)、振付ライザ・ジェナーロ(『The Most Happy Fella』『Once Upon A Mattress』)。

 主な出演者は、アーヴィング・バーリン役マイケル・テリオール、スコット・ジョプリン役マイケル・ボートマン、若くして亡くなるバーリンの妻ドロシー役ジェニー・フェルナー(『Little Shop Of Horrors』『Pal Joey』)、バーリンのビジネス・パートナー(仮名)テディ・スナイダー役マイケル・マッコーミック((『Kiss Of The Spider Woman』『1776』『Marie Christine』『Gypsy』『The Pajama Game』『Dr. Seuss’ How the Grinch Stole Christmas!』『Curtains』)。
 

 『Danny And Sylvia: The Danny Kaye Musical』(6月20日14:00@St. Luke’s Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<こちらも、ある種の実録もの。
 登場人物はダニー・ケイと、楽曲作者としての才能もあり、ケイが世に出る手助けもした、その妻シルヴィア・ファインの2人だけ。夫婦の情愛がドラマの軸だが、ストーリーの信憑性は不明。
 ともあれ、舞台の見どころは、ブライアン・チルダーズによるダニー・ケイの芸の再現にある。この舞台、一旦ニューヨークを離れてのロンドン公演がウケたらしいが、理由はその辺だろう(ロンドンものミュージカルにはこのタイプが多い)。なので、お年を召した懐かしがりの観客は喜んでいたが、個人的にはイマイチ。
 もっとも、かっちりと作ってはあり、完成度はそれなりに高い。>

 ダニー・ケイで知られる既成の有名曲(「Tchaikovsky」「Dinah」「Minnie The Moocher」等)はケイの芸を見せるためにピンポイントで出てくるだけで、それ以外の楽曲はこの作品用のオリジナル。手がけているのは、作曲ボブ・ベイン、作詞ロバート・マッケルウェインの2人。
 ベインはギタリストとしてMGM映画で仕事をしていた人で、「Peter Gunn」のテーマのギターや「Lara’s Theme」のバラライカは彼が弾いているとか。マッケルウェインは今作の脚本も書いているが、やはりMGMで働いていてダニー・ケイと知り合い、その縁で長らく彼の広報を務めたらしい。

 シルヴィア役はキンバリー・フェイ・グリーンバーグ。
 ダニー・ケイ役チルダーズは、この作品の後、やはりダニー・ケイを演じる『An Evening With Danny Kaye』というソロ・パフォーマンスを各地で上演していたようだ。今回調べていて見つけたニュースによれば、2020年春にコロナ禍で閉まったオフの『Love Quirks』という新作ミュージカルの演出を行なっていて(出演はしていない)、それが今年の夏に再オープンするらしい。ちょっと面白そう。