The Chronicle of Broadway and me #892(Pacific Overtures/Ernest Shackleton Loves Me)

2017年5月~6月@ニューヨーク(その4)

 興味深いオフ作品2本をまとめて。
 

 『Pacific Overtures』(6月1日19:00@Classic Stage Company)は、前年(2016年)にクラシック・ステージ・カンパニーの芸術監督になったジョン・ドイルの演出。編曲はジョナサン・テュニック。共にソンドハイム作品で実績のある人だ。
 というわけで、これもスティーヴン・ソンドハイムの作曲・作詞(脚本ジョン・ワイドマン、補作ヒュー・ホイーラー)。

 本作(邦題:太平洋序曲)の宮本亜門演出版を2000年から2011年にかけて、新国立リンカーン・センター新国立ブロードウェイKAAT、と追いかけて観ている。日本を舞台にした日本人たちの物語をアメリカ人が英語でミュージカルに仕立てた作品を、日本語に翻訳して日本人の役者が演じるという捻じれ具合を面白く思ったからだが、それだけにブロードウェイの英語によるアメリカ人役者たちによる上演には、かえって興味が湧かなかった。
 そういう意味では、このリヴァイヴァルも同じ。小さな規模で良質のリヴァイヴァル上演をコンスタントに行なっているカンパニーの仕事だけに、丁寧に作られているが、驚きはなかった(この作品を初めて観るのが、この舞台だったら、また別の感慨を抱いたのかもしれないが)。

 主な出演者は、ナレーター役が『Allegiance』のジョージ・タケイ、香山弥左衛門役スティーヴン・エング、ジョン万次郎役はブロードウェイの亜門版にも出ていたオーヴィル・メンドーザ、香山の妻たまて役ミーガン・マサコ・ヘイリー。

 [追記]
 3月8日から日生劇場で公演の始まる翻訳版が、このオフ・ブロードウェイ版で採用された短縮脚本(1幕上演)に基づいていることがわかって話題になっているようですが、以下の2つの点で、日生劇場版は、このヴァージョンとはかなり別の姿になるのではないかと思われます。
 1つは、舞台の形状。このオフ版は、小振りな劇場の中央に細長く島状に張り出す形の舞台を、客席が取り囲んで観る、というスタイル。
 もう1つは、出演者の数。全部で10人しか出演せず、上記のナレーター役、香山弥左衛門役、ジョン万次郎役、たまて役、以外の役者はそれぞれ複数の役をこなす、というのが、このオフ版の特徴。
 今回の翻訳版は、プロセニアム形式の日生劇場で、17人の役者が登場するらしいですから、自ずから違った演出になるのかと。現代的な服装だったオフ版と違って、日生劇場版はそれなりの扮装をしているようですし。
 ちなみに、今後、提携先のメニエール・チョコレート・ファクトリーでも上演される、ということになれば、これまた劇場の形態が違いますから、また違った演出になったりするのかもしれません。
 いずれにしても、マシュー・ホワイト(『Top Hat』)による新演出を楽しみに待ちたいと思います。
 


 『Ernest Shackleton Loves Me』(6月2日20:00@Tony Kiser Theatre/Second Stage)は、2017年のブルックリンに生きる女性キャットと、1914~1917年の南極で遭難しそうになっているアーネスト・シャクルトンとが(なぜか)ネット(もちろんインターネットのこと)でつながり、魂の交流をする、という話。
 アーネスト・シャクルトンとは、20世紀初頭にイギリスの南極探検隊に2度参加して当時の最南端到達新記録を樹立、更新した人で、1911年にノルウェーのアムンセンが南極点到達を果たした後、この作品に出て来る1914~1917年には南極大陸初横断を目指していた。一方のキャットは作曲家だが、現在失業中かつ子育て中かつパートナーが演奏ツアーで留守中という四面楚歌状態。そのキャットが出会い系サイトにアクセスしたことが原因で、(なぜか)遭難中のシャクルトンと時空を超えてシンクロする。

 面白いのは、キャットが……と言うか、キャットを演じるヴァル(ヴァレリー)・ヴィゴダが、エレクトリック・ヴァイオリンを弾きながら、エド・シーランのようにルーパーと呼ばれる(録音→瞬時ループ再生機能)装置を使って音を重ねて1人で音楽を演奏できることで、これが、この舞台の肝であり見どころ。
 加えて、シャクルトンも音楽好きという設定になっていて、演じるウェイド・マッコラムはバンジョーを弾く(この役を演じるために習得したと語っている映像を観た)。結果、時空を超えた2人の楽しい(?)共演が始まる。
 やがて隔たっていたはずの時空が絡まり合い、最後には互いを救い合うことになる……という顛末が気になる方は、BroadwayHDで配信されているので、そちらでご確認ください。

 作曲ブレンダン・ミルバーン、作詞ヴァル(ヴァレリー)・ヴィゴダ。脚本ジョー・ディピエトロ(『I Love You, You’re Perfect, Now Change』The Thing About Men『All Shook Up』『The Toxic Avenger』『Memphis』『Living On Love』)。
 演出リサ・ピーターソン。アレグザンダー・V・ニコルスによる映像遣いを含むプロダクション・デザインも面白い。

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