Top Hat(ライヴ・ヴューイング)@TOHOシネマズ川崎 2022/04/03 16:30

 なにしろ、トップお披露目が『Dance Olympia』(@東京国際フォーラム ホールC/2020年1月21日観劇)だったわけだから、柚香光の“売り”は、まずダンス、ということなのだろう。その流れでの花組『Top Hat』公演@梅田芸術劇場メインホール。てことは、過去公演に格別の感慨を抱かなかった演目であろうと観ておくべきか。とはいえ、あんな状況の大阪に行く勇気はなく、抽選に応募して当選したら……と考えた末の映画館でのライヴ・ヴューイング。
 結論から言うと、けっこう楽しく観た。

 なにより、柚香光が楽しそうに踊るのがいい。
 大元がフレッド・アステア&ジンジャー・ロジャーズによる1935年の同名映画なのは、ご承知の通り(日本でも翌年に邦題『トップ・ハット』で公開)。
 アステアのダンスは、タップ主体だけれども、黒人タップのソフィスティケイトとはひと味違った軽やかな洒脱感があり、それは、他の白人ダンサーとも違う持ち味。もちろん、ジーン・ケリーとはまるで違う。その辺の雰囲気を出そうとすると、日本人の場合、気取った感じになりがちで、しかも、往々にして、それが似合わないことが多い。同時に、タップの技の見せ方が、これ見よがしになりがち。結果、うまいけど野暮ったい、みたいなことになる。あと、華がないと言うか……。まあ、そういう場合が多いという話(苦笑)。
 もちろん柚香光のダンスがアステアのレヴェルに到っているわけではないし、タップの技術だけで見れば物足りない部分もあるだろう。が、彼女には、気取りの似合う華があり、これ見よがしでない自然さがあり、そして、なにより、楽しそうに踊っているように見えるのがいい。
 観客にそう思わせるにあたっては、おそらく歌劇団の歴史の生む“宝塚マジック”みたいなものもあるのだが、それを背景にしつつも、柚香光というパフォーマーの抜きん出た資質の輝きも確かにある。それが、スクリーン越しで観ていてさえ伝わって来て、こちらまで楽しい気持ちにさせてくれる。

 加えて、この舞台は、その他の主演級3人、星風まどか、水美舞斗、音くり寿のバランスがよく、各人の存在感が生きていた。
 映画のジンジャー・ロジャーズに当たる役が(もちろん)星風まどか。気の強さとチャーミングさの塩梅が絶妙。柚香とのデュオ・ダンスのコンビネーションもピタリとキマって、さすがの仕上がり(花組に限らず、このところの歌劇団の、経験値の高いトップ娘役起用はいい結果を出している)。
 水美舞斗と音くり寿の役は、元の映画版でエドワード・エヴェレット・ホートンとヘレン・ブロデリックというコメディ・リリーフの名優2人が演じた、主演2人の友人ホレス&マッジ・ハードウィック夫妻。この2人のせいで話がこんがらがると同時に面白くもなる、という芝居全体を支える難役だが、水美、音、ともに期待に応えてくれる。
 水美は第1幕から出ずっぱりで、得意のダンスを封印しての文字通りの熱演(終盤、踊れない人という設定のタップで奮闘するのが笑える)。音は鷹揚に構えているように見えてユーモラスな懐の深い演技(前作『元禄バロックロック』でのツナヨシ役以来、演技が振りきれていて楽しい)。その2人の対比がさらに、相乗効果でいい味を出す。

 そうした主要キャストの活躍とは別に、大人数によるタップ等、宝塚歌劇ならではの人海戦術を生かした場面も多く、それもまた、楽しく観られた理由。

 最初に書いた「格別の感慨を抱かなかった」『Top Hat』の過去公演というのは、2015年秋の来日公演のこと(10月2日@シアターオーブ)。旧サイトにも感想を残していないし、詳細も覚えていないが、予想を超える仕上がりではなかったはず。
 それに先駆けての2015年春の宝塚歌劇宙組による翻訳公演も観ていて(4月16日@赤坂ACTシアター)、そちらも強い印象は残っていない(朝夏まなと×実咲凜音の新トップ・コンビお披露目公演)。今回の花組公演とセットがほぼ同じだったので「ああ観たな」と思い出したぐらいだ。もっとも、そんな風に内容は記憶の彼方なので、今回の花組公演との比較はできないのだが。
 宝塚歌劇版の脚本(脚色?)・演出は2015年版も今回も齋藤吉正。
 ちなみに、舞台版『Top Hat』は、アステア&ロジャーズの映画版にアーヴィング・バーリンが他作品に書いた楽曲も加えて2011年にイギリスで作られている。UKツアーで幕を開けた後、翌年にはウェスト・エンドでオープン。脚本はドワイト・テイラー&アラン・スコットの映画版を元にマシュー・ホワイト&ハワード・ジャックスが改訂。演出はマシュー・ホワイト。

 『元禄バロックロック』『The Fascination!』はチケットを持っていた1月25日の公演がキャンセルになり、やむをえずの映画館でのライヴ・ヴューイングだったので、未だに花組“新トップ・コンビ”を生で観ていない。てか、星風まどかに関しては、宙組時代の『Flying Sapa~フライング サパ~』@赤坂ACTシアターがやはりチケットを取りながら中止になったから、『アナスタシア』以降ずっと映画館でしか観ていないのか。
 次回公演は、ぜひとも劇場で観たいものだ。

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