Jazzyなさくらは裏切りのハーモニー~日米爆笑保障条約~@新橋演舞場 2021/06/16 13:30

 コロナ禍で延期になっていた熱海五郎一座公演。紅ゆずる、宝塚歌劇退団後初の本格的舞台出演がようやく実現した。

 舞台は意外にも第二次大戦中のアメリカ西海岸サンフランシスコ。そして、意外にもアメリカ敗戦の大統領声明がラジオから流れる。アメリカは東西に分割され、西を日本が、東をドイツが統治することになるという。
 三宅裕司をはじめとする登場人物たちは、日系アメリカ人のジャズ・メンという設定。彼らは日本兵の戦意喪失を目的としたラジオ番組で演奏していた経緯があり、戦勝国として上陸してくる日本の対応に不安を抱いている。ことに、その番組でアナウンサーを務めた、「東京ローズ」ならぬ「ニューヨークのさくら」と名乗る謎の日系女性に対する追及は厳しいものになるだろう。
 そこにやって来るのが、占領軍司令官・マツカサ(渡辺正行)と強面の海軍中佐・モトホシクミ(紅ゆずる)。日本文化を押し付ける一方で、「さくら」の正体を探ろうとする彼らと、日系ジャズ・メンとの駆け引きが始まる。人々の命運やいかに?

 この「意外にも」が重なる、ある意味シリアスな設定は野心的。正直、脚本のツメは甘いのだが(もうひとひねり欲しいところ)、今の時代に重なる空気感も敏感に取り込んでいて、全体としては面白い。
 が、熱海五郎一座の面々の動きが弱い、と感じて少し物足りなかった。
 元々、動きで見せるタイプのメンバーはいないのだが、それでも立ってセリフを言うだけの場面が多い。例外が渡辺正行。たいして動くわけじゃないが、いつものわざとらしい動きが際立って見える。そのぐらい周りが動かない。
 そんな中、ひとり気を吐くのが紅ゆずる。SET(スーパー・エキセントリック・シアター)のメンバーを従えて、ダンスにアクションに、そして歌にと大活躍。逆に言うと、レギュラー陣が動かないのは、もう「そこは紅さんよろしく!」ということだったのかもしれない。

 それにしても、紅ゆずるは真面目。いや、もちろんファンの期待に応えて、おちゃらけてみせはする。けど、設定に無理の多いキャラクターを、その場その場を面白く見せつつ着実に演じて、ツメの甘い脚本に筋を通していく。考え抜いた上での演技だと思われる。もっとも、宝塚歌劇時代に、異次元ファンタジーから菊田一夫の古臭い愁嘆劇までを幅広くこなしてきた紅ゆずるであってみれば、当然の成果とも言えるが。
 今回の作品の、ストーリー上の、と言うよりは舞台の展開上(演技上?)のクライマックスのひとつが、レギュラー陣による生バンド演奏にあったのだが、彼らがそれに集中できたのも、一方に紅ゆずるの活躍があったればこそだったと思う。

 紅ゆずるの次回作は明治座の『エニシング・ゴーズ』(Anything Goes)。リノ・スウィーニーは難役なので期待しすぎないように気をつけるが(笑)、それでも楽しみに待ちたい。

Jazzyなさくらは裏切りのハーモニー~日米爆笑保障条約~@新橋演舞場 2021/06/16 13:30” への1件のフィードバック

コメントを残す