The Chronicle of Broadway and me #624(Brief Encounter)

2010年11月@ニューヨーク(その5)

 『Brief Encounter』(11月19日20:00@Studio 54)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<プレイビル・オンラインによれば、ジャンルはプレイ・ウィズ・ミュージックだったが、ノエル・カワードの書いた詞にステュ・バーカーが曲を付けて作った楽曲が歌われて(一部カワードが詞曲を書いた楽曲のバーカーによるアレンジもあり)、ほとんどミュージカル。これが面白かった。
 元の映画(1945年)は、原作の戯曲『Still Life』を書いたカワード自ら脚本(及び製作)を手がけたもので、監督はデイヴィッド・リーン。未見だが、ほろ苦い既婚者同士の恋愛映画らしく、日本でも1948年に公開されて“名作”と呼ばれているようだ(邦題:逢びき)。それを、演出のエマ・ライスが、ほぼ換骨奪胎、“人間喜劇”とでも呼びたくなるような、ある種のコメディに仕上げた。
 換骨奪胎の手法は、装置も含め全体をヴォードヴィル的表現で統一して、舞台上の世界が演劇的虚構であることを強調する、というもの。役者が歌ったり楽器を演奏したりするのも、その一部。
 これによって、渦中のカップルの深刻なロマンスは大時代的に見え、周囲の俗っぽい空気から浮いてしまう。しかしながら、時折吹く強い風に、カップルも周囲の人間たちも一様に煽られ(全員が一斉に上半身をクルリと回す)、深刻な者も俗な者もみな時の波に容赦なく呑まれていく。……みたいなことかな。
 で、ですね。例えば、上記の「全員が一斉に上半身をクルリと回す」の“一斉に”の揃い方が半端ないわけですよ。そこにウットリする。こうした表現が随所に出てくるから、たまらない。
 そう。アイディアに満ちた手法も面白いのだが、手法を実現する役者たちの身体的技術がもっと面白い、というか素晴らしい。
 そういうところは、2008年6月に観た『The 39 Steps』とよく似ている。どちらもイギリス産で、ここらが彼の国の凄さか、と思う。お見事。>

 このブロードウェイ版はランダバウトの製作だが、元々はイギリスはコーンウォール拠点のニーハイ・シアター(Kneehigh Theatre)の作品(同劇団は2021年に活動を終えたようだ)。
 というわけで、出演者は、2人のミュージシャンも含め全部で9人だが、大半がイギリスから来ている。中心になるカップル役はハンナ・イェランドとトリスタン・スターロック。イェランドはトニー賞でプレイ部門の主演女優賞候補になっている。
 印象的だった装置デザインはニール・マーレイ。
 これも1月2日までの期間限定公演。