The Chronicle of Broadway and me #838(The Color Purple)

2015年11月@ニューヨーク(その3)

 『The Color Purple』(11月19日20:00@Jacobs Theatre)の感想。

 初演の感想を上げるタイミングに合わせて、リヴァイヴァル版についても上げておきます。
 旧サイトに書いた観劇当時の感想です(<>内)。

<初演の感想を読み直して、記憶していたより褒めているなと思ったが、ともあれ、『The Color Purple』からは再びトニー賞の主演女優賞が出るだろう、と予言してリヴァイヴァル版の話に入る。

 再び、と言うのは、初演の際に同賞を獲得しているからだが、実は、この作品、その2004/2005シーズンのトニー賞で、作品賞を含む11部門でノミネートされながら受賞は主演女優賞のみという結果に終わっている。まあ、トニー賞は“時の運”的な要素も強いので、結果だけでは何とも言えないところもあるが、翌シーズンの『Spring Awakening』は同じく11部門でノミネートされ、作品賞、楽曲賞を含む8部門で集中的に受賞していて対照的。にもかかわらずロングランの期間は、どちらもほぼ同じなのだから興行は難しい。
 てなことはさておき、その時のトニー賞では、この作品から主演女優賞の他に助演女優賞にも2人がノミネートされた。むべなるかなで、『The Color Purple』は3人の女優を中心に回る舞台として作られている。この3人の力で舞台の出来が決まると言っても過言ではない。

 今回のリヴァイヴァル版では、シンシア・エリーヴォ、ジェニファー・ハドソン、ダニエル・ブルックスが、その3人。
 いずれもこれがブロードウェイ・デビューだが、一般的に知名度が高いのは、映画版『Dreamgirls』でアカデミー賞の助演女優賞を獲ったジェニファー・ハドソンだろう。TVの「American Idle」出身で、『Dreamgirls』に出演の後、自身のアルバムをすでに3枚リリースしている。そんなこともあって、彼女が目玉になるだろうことを前提に舞台に臨んだ。が、驚くことに、そのハドソンが霞むほど他の2人が強力だった。
 主演のシンシア・エリーヴォは、ウィキペディアによれば、ナイジェリア移民の子としてロンドンに生まれている。テレビと地方の舞台に出演の後、2013年にロンドンの小劇場で上演された、このブロードウェイ版と同じジョン・ドイル演出の『The Color Purple』に今回同様の役で出演している。その後、『Sister Act』のUKツアーや、ウェスト・エンドの失敗作(中身は知らないが興業的には6週間と3日で終わっている)『I Can’t Sing!』という、イギリス版「American Idle」とも言うべきTV番組「The X Factor」の舞台ミュージカル化(いかにも失敗しそう)に出演してから、ブロードウェイに登場。このところロンドンにはご無沙汰しているので彼女のことは全く知らなかったのだが、目を見張る才能の持ち主で、その小さな体からは想像もつかない驚くべき声が出てくる。初演の主演女優ラシャンズも小柄ながら迫力ある歌声で魅了してくれたが、それを上回る、と感じるほどだ。演技も見事。
 ダニエル・ブルックスはジョージア州オーガスタ出身で、ジュリアードでドラマを学んだ後、TVドラマ(出世作は「Orange Is The New Black」)や映画で活躍してきた人らしい。こちらは、立派な体格に相応しい圧倒的な声量で迫ってくる人で、劇中で、男に屈するなと主人公を鼓舞するのにぴったりの役回り。
 今回の『The Color Purple』が魅力的なのは、彼女たち個人の力もさることながら、そうした彼女たちを中心にした役者たちの歌を、より前に出してきているから。
 具体的な変化としては、大編成だったオーケストラをかなりシンプルにしてある。これには最初の上演がロンドンの小劇場だったからという理由も考えられるが、板張りの床と壁(と、そこに装飾的に掛けられた複数の木の椅子)という、これまたシンプルな装置と相まって、豪華な大衆演劇という感じで音楽的にも視覚的にもやや装飾過多だった初演から、贅肉を削ぎ落として骨太になった印象が強く、結果的に歌もドラマもまっすぐ観客に迫ってくる。

 余談だが、初演『The Color Purple』と同じ2004/2005シーズンのトニー賞で演出賞を獲ったのが今回の演出家ジョン・ドイルで、作品は『Sweeney Todd』のリヴァイヴァル
 その『Sweeney Todd』もイギリスの小劇場から持ってきた舞台で、納屋の中という変わった設定になっていて、セットが全面板張り(の印象)だった。加えて、演奏もシンプル、と言うか、変わっていて、出演している役者が全ての楽器を演奏するというもの。まあ、その時の役者による演奏の成果は微妙なところもあったが、いずれにしても、簡素化はドイルのテーマなのかもしれない。今回は、それが功を奏した。

 楽曲は、ブレンダ・ラッセル、アリー・ウィリス、スティーヴン・ブレイ、という3人の共作。
 ブレンダ・ラッセルは自身のヒット曲を持つシンガー・ソングライター。アリー・ウィリスは「September」(アース・ウィンド&ファイア)をはじめとする数々のヒット曲で、スティーヴン・ブレイはマドンナとの関わりで知られるソングライターだ。
 それぞれに確かなキャリアを持つ3人が、どのようにコラボレートしたのかは不明だが、でき上がった楽曲はかなりゴスペル色が強い。このリヴァイヴァルでは、編曲が、そのゴスペル色をよりストレートに出す方向に変化したと言っていいだろう(今回の編曲は、初演では追加の編曲のみだったジョゼフ・ジュベール)。それでも、ある種の華やかさが損なわれない辺りに、この3人のコンテンポラリーな感覚が生きているのかもしれない。>

 初演の筆頭プロデューサーだったオプラ・ウィンフリーは再びプロデューサーとして参画。トニー賞的には雪辱を果たすことになる。