[考察011] NYMF(ニューヨーク・ミュージカル・フェスティヴァル)って?

 「ニューヨーク・ミュージカル・フェスティヴァル」は、2004年に「ニューヨーク・ミュージカル・シアター・フェスティヴァル」という名前で始まった、新しいミュージカルを世に出すためのイヴェント。改名は2016年開催から(略称は当初からNYMF)。2019年まで16年間続いた。
 1年目は気づかずにいたが、翌年に体験して以降は毎年その開催に合わせて渡米していた(最後の年は都合がつかず観られなかったが)。もっとも、開催期間は1か月近くに及ぶため、1週間程度の滞在では参加作品の半分も観られないのだが。

 変遷はあるが、マンハッタンのミッドタウンにあるオフからオフ・オフ規模の複数の小劇場を会場に、エントリーされた40本前後の新作ミュージカルがそれぞれ数回ずつ上演される、というのが基本スタイル。学校の授業のように各劇場とも1日を数コマに割って複数作品を上演するスケジュールになっているので、うまく調整すると毎日異なった舞台を2~4本ぐらいは観ることができた。料金も安い(2018年時点で1公演27.50ドル)。チケットまとめ買いの「パス」購入者には先行予約権があった。
 作品は、すでに完成しているものが多かったが、台本を前にしたリーディング形式のものも少なからずあり(基本無料)、少数だが楽曲紹介を目的とするコンサート形式のものもある。外国からの参加もあった。初期には、観客からお題を募っての即興ミュージカルや、ダンス・パフォーマンス、映画館を使っての古いミュージカル映像の公開なんてのもあったが、しだいに整理されていった。同時に、劇場の場所も、当初はかなり分散していたが、終盤には42丁目周辺の数劇場にまとまった。季節も秋から夏に変わった。

 このイヴェントのわかりやすい成果は、輩出したブロードウェイ・ミュージカルに表れている。『【title of show】』『Next To Normal』『Chaplin』『In Transit』の4本が最終的にブロードウェイに進出。この内、『Next To Normal』は2009年のトニー賞で最優秀楽曲賞他を受賞した。
 オフに進出した作品となると30本を超える。その内には、アイドル的ゴスペル・グループによるキリスト教布教ライヴという捻った設定の『Altar Boyz』のように、5年近いロングランを果たしたヒット作もある。

 そんな風にして最終的にはフェスティヴァルそのものの知名度も上がっていったが、そもそもが知られざる楽曲作者たちの新作ミュージカルを上演していこうという試みであるし、母体となる劇場や劇団もないから、発足当初は資金集めからして大変だったに違いない。具体的な運営においても苦労は多かったと思われる。
 それが、ヴォランティアを募り、それなりにスポンサーを集め、次第に整備されながら16年も続いたのは、ニューヨークにおいては、こうした試みが作る側からも観る側からも強く求められていたからだろう。少なくとも、観る側にとっては、低料金で、オーソドックスなものから過激なものまで多様な発想の新作ミュージカルが数多く観られるのは楽しかった。
 NYMF。規模は大きくはなかったが、果たした役割は大きかったと思う。
 同様のイヴェントを首都圏でやってくれたら、はりきってヴォランティア・スタッフに応募するのだが。下北沢あるいは阿佐ヶ谷/高円寺あたりで、どうですかね。

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