The Chronicle of Broadway and me #900(A Wall Apart/The Goree All-Girl String Band/Peace, Love And Cupcakes/Camp Wanatachi: In Concert)

★2017年7月～8月＠ニューヨーク（その8）

　NYMF（ニューヨーク・ミュージカル・フェスティヴァル）参加作品7本を2分割して簡単な紹介を（その1）。

　『A Wall Apart』（7月29日17:00@Acorn Theatre/Theatre Row）の楽曲作者（作曲・作詞）は、オーストラリアのバンド、エア・サプライの中心人物の1人、グレアム・ラッセル（彼はイギリス人）。名前の前にロード（Lord）が付いているから「卿」なのか。

　内容は、ベルリンの壁が建設されたことで起こる兄弟の対立や恋人たちの苦難、といった感じ。感じって何？……ってことですが（笑）、作られたラヴ・ストーリー以上でも以下でもなく、ベルリンの壁が描かれている割に、あまり深みがない、という気がしたということ。兄弟の1人がロック・バンドをやっているのだが、それも、やや都合が良すぎるかと。
　実のところ、ノリのいい楽曲もあまり記憶に残っていない。

　脚本サム・ゴールドスタイン＆グレイグ・クライド。
　演出・振付キース・アンドリューズ。
　

　『The Goree All-Girl String Band』（7月29日21:00@Acorn Theatre/Theatre Row）は実話に基づいたミュージカルらしい。タイトルにある「Goree」はテキサス州の女性用刑務所の名前。そこに収容された受刑者による音楽演奏をオンエアするラジオ番組「Thirty Minutes Behind The Walls」というものがあり、その番組で1940年頃に有名になった6人組の話。
　大恐慌の後の時代。女性だからこその苦難が社会の歪みを表わす。と同時に、出演者たちが、ギター、バンジョー、フィドル、チェロ、等々を演奏しながら歌うという別次元の見どころもある。という、二重に面白い構造の作品。

　作曲アーティー・シーヴァーズ、作詞・脚本マイケル・ブラッドリー。
　演出アシュリー・ブルック・モンロー。

　6人の女囚（って言うと『Chicago』の「Cell Block Tango」を思い出すが）の1人はローレン・パットゥン（『Fun Home』アンダースタディ→途中出演から後に『Jagged Little Pill』）。残る5人は、ルビー・ウルフ、シャネル・カリムカーニ、ローレン・Ｊ・トーマス、リズィー・ハグステッド、ケンドラ・ジョー・ブルック。
　

　『Peace, Love And Cupcakes』（7月30日10:30@Acorn Theatre/Theatre Row）は、転校した先の学校で浮いていたミドル・ティーンの女子カイリーが、カップケーキ（を作る）クラブを立ち上げて人気者になるが、それを妬む者も現れて……という、典型的とも言える学園話。

　シェリル・バーク（母）＆キャリー・バーク（娘）が共同で書いた同名の児童書が原作で、この2人は、ジル・ジェイセンと共に脚本も書いている他、当時14歳のキャリーは、カイリー役で出演もしている（ただし、観た回のカイリー役はダブル・キャストのもう1人、マディソン・ムラヘイ）。
　作曲・作詞リック・ヒップ＝フロレス。
　演出・振付ロミー・サンドゥー。

　出演者は若い子ばかりだが、NYMFの作品にしては珍しく20人を超えていた。
　

　『Camp Wanatachi: In Concert』（7月31日17:00@Green Room 42）は、女性のキリスト教徒ばかりが参加するサマー・キャンプの話で、タイトル通りコンサート形式での上演。

　NYMFのプログラムにある作品紹介には、「2人の少女の性的発見の旅」という文言があり、内容にセクシャルな気配はあるが、それがキリスト教とどうつながっているのかは極東の仏教徒の理解を超えていた、とだけ言っておこう（苦笑）。
　ただ、ナタリー・エリザベス・ワイス（作曲・作詞）の楽曲は、エレクトロ・ハウスっぽいアレンジが施されているが、ポップさやゴスペル的な感触も備えていて、魅力がある。

　脚本はベカー・ブランステッターと楽曲作者ワイスの共同執筆。
　演出ミア・ウォーカー（『Normativity』）。

　2人の少女役は、メリッサ・オドネル（『Shrek The Musical』）とジリアン・ミューラー（『Dr. Seuss’ How The Grinch Stole Christmas!』『Bye Bye Birdie』）。