風の谷のナウシカ 上の巻~白き魔女の戦記@歌舞伎座 2022/07/10 18:30

 歌舞伎座の『七月大歌舞伎』公演は、関係者のコロナ感染のため、第一部の18日~19日の中止に続き、第二部、第三部も19日が中止に。さらに20日の(元々の)休演日を挟み21日~22日の第一~三部の中止が発表され、最終的に全公演が中止となった。
 そのため、予定されていた最終29日の第三部『風の谷のナウシカ 上の巻~白き魔女の戦記』の中継配信もなくなったが、代わりに、その7月29日(金)18時30分から同舞台の収録済み映像が配信されることが発表された(詳細はこちら)。
 面白い舞台だったので、ざっくり紹介しておく。

 歌舞伎版『風の谷のナウシカ』の初演は2019年12月新橋演舞場。原作の一部を描いたアニメーション映画版ではなく、コミックによる原作のほぼ全貌が、昼の部(序幕~三幕目)、夜の部(四幕目~大詰)の通しで上演された。
 実は、12月8日昼公演で事故があり、ナウシカを演じていた尾上菊之助が負傷したため、その日の夜公演は中止になった。が、翌日から菊之助は復帰。演出の変更はあったものの、そちらも16日に無事に観ることができた。
 この舞台は収録映像が後に映画館で上映され、ソフト化もされているから、ご覧になった方も多いのではないだろうか。

 G2の演出したその初演版は、歌舞伎の様式にのっとりながらも、エンタテインメント演劇としてのスペクタクル性にも目配りした仕上がり。それはそれで面白かったのだが、猿之助の手がけた『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』や、同じG2演出による『NARUTO~ナルト~』同様(どちらも楽しく観たが)、微妙な中途半端感を覚えないではなかった。
 それが今回は、より歌舞伎に寄った演出で、わざわざ歌舞伎で採り上げることの意味を強く感じさせてくれる舞台になっていた。気配としては、国立劇場で毎年1月に上演される、菊五郎劇団による復活狂言のイメージ。
 “伝統芸能”歌舞伎は(文楽もだけど)、実は元来、強力な雑食性を備えた“大衆演劇”で、昔から幅広い題材を採り上げて作品化してきている。その“咀嚼”の仕方が面白さの1つなわけで、今回の『風の谷のナウシカ 上の巻~白き魔女の戦記』には、そんな“咀嚼”の面白さを感じた。
 演出に、G2に加えて、尾上菊之助、尾上菊之丞の名前が入っているあたり、歌舞伎側からの積極的なアプローチを思わせる。

 話としては、「上の巻」と謳っていることからわかるように、初演版で言えば昼の部にあたる。それでもアニメーション映画よりは先まで進む。アニメーション映画しか観たことがない方にとっては、その先のナウシカ、そして世界の運命が興味深いだろう。
 今回は、初演でナウシカを演じた尾上菊之助が、初演で中村七之助が印象深く演じた敵将クシャナを演じる。そして、ナウシカを演じるのが中村米吉。この配役が絶妙でもあり、この2人のキャラクターをより深く描いたのが今回のヴァージョンということになる。
 出演者では、大河ドラマに出ていてしばらく舞台から遠ざかっていた坂東彌十郎が出ているのも話題だが、個人的には、市村橘太郎が初演に引き続き味のある役で出ているのがうれしい。他に、尾上右近、中村吉之丞、中村錦之助、中村又五郎ら。菊之助の子供たちも出ている。王蟲の声は「虫」だけに初演版同様、“あの人”。

 

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