モダン・ミリー@シアタークリエ 2022/09/09 13:00

 上演に特別な意味を見出せない翻訳ミュージカルについては原則スルー派なので、この舞台も観る予定はなかったんだけれども、東宝ナビザーブから来たディスカウントのお知らせメールにつられて予約してしまったという貧乏性な私です(笑)。で、ですね、予想通り“特別な意味”を見出せる上演ではなかったのですが、これが思いのほか楽しくて、貧乏性でよかったと思ったしだい。
 ところが、さっき公式サイトを見たら、観劇の翌日から3日間の休演が発表されている。ならば、この先どうなるのか予断を許しませんが、このタイミングでとりあえずオススメの感想を上げておこうかと。

 ブロードウェイ版『Thoroughly Modern Millie』を観たのは20年前。その感想の書き出しは、こうだ。
 <東宝が権利を買って大地真央主演で翻訳上演しそうな作品、それがブロードウェイ版『Thoroughly Modern Millie』だ。>
 時が経ち過ぎて大地真央主演はかなわなかったけど、そこは後輩が引き継いで……慧眼じゃないですか(笑)。

 オリジナル舞台の細かい評価は、同感想に詳しく書いてあるので読んでいただきたいが、結論としては、「大人数による華やかなダンス・シーン、大がかりなセット、陽気な雰囲気と、ブロードウェイ・ミュージカルらしい豪華さとサーヴィス精神は備えていて、この舞台が一定の完成度に達していることは間違いない。」ということになる。
 その中で、「大人数」と「大がかりなセット」による「豪華さ」は、今回の翻訳公演では、劇場のサイズの違いから実現できなかったが、「華やかなダンス・シーン」と「陽気な雰囲気」による「サーヴィス精神」を継承。「ブロードウェイ・ミュージカルらしい」楽しさが詰まった舞台ができあがっている(正直に言うと、小振りな劇場での公演でよかったと思う。「大人数」と「大がかりなセット」による「豪華さ」を目指したらブロードウェイには敵わないから)。

 とにかく、役者がよかった。
 まずは、ミリー役の朝夏まなと。『リトル・ウィメン~若草物語~』に次いでのサットン・フォスター主演作への登場だが、手足の長さ、キレのいいダンス(ことにタップ)、そして陽性のキャラクターが、前作以上にハマって舞台を輝かせている。
 そして、ミセス・ミアーズ役の一路真輝。彼女が期待を裏切ることはまずないが、この“おかしな悪人”という、これまでの役柄からは想定しにくいキャラクターを楽し気に“おかしく”演じて完璧。舞台の格を上げている。
 この2人を軸に、朝夏まなととは宙組でトップ・コンビを組んでいた歌も演技も確かな実咲凜音、軽く見えて実は難役のジミーをこなす中河内雅貴、意外にもコミカルな二枚目として何度も場をさらう廣瀬友祐、もはや貫禄で話の芯を支える保坂知寿、うまいけど誰だ?と思った入絵加奈子、陰で活躍する中国人兄弟コンビの安倍康律と小野健斗らが、タイミング命のミュージカル・コメディに固い結束で挑んでいる。アンサンブルのダンスの仕上がりもいい。

 演出・翻訳/小林香。振付/木下菜津子、RON×II、松田尚子。
 訳詞/竜真知子。
 工夫を凝らして巧みにダウンサイジングされた装置は松井るみ。

 2年半前に始まる予定だった全公演が中止になった舞台の再挑戦。再開を祈る。

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