The Chronicle of Broadway and me #1016(Agrippina)

2020年1月~2月@ニューヨーク(その8)

オペラハウス前のポスター

 『Agrippina』(2月6日19:30@Metropolitan Opera House/Lincoln Center)についての観劇当時の感想。
 

 『Porgy And Bess』に続いて4月にMETライブビューイングに登場するのが、ヘンデルのオペラ『Agrippina』。陰謀渦巻くローマ帝国の物語を、現代感覚あふれるブラック・コメディに仕立てた面白い作品。
 現地での観劇を元に、こちらに記事を書きました。読んで興味を持たれたら、ぜひ字幕付きでお楽しみください。

 [追記]

 上掲リンク先のMEN’S Precious WEB版の記事をブログ仕様にして以下に転載します(<>内)。
 METライブビューイングでの上映を前提に「辛辣でコミカル!視覚的にも面白いMET新登場オペラが字幕付きで楽しめる!」のタイトルで2020年2月に公開されていたものです。

<以前、紹介したジョージ・ガーシュウィンの『Porgy And Bess』に続いて、METライブビューイングに4月中旬に登場するのが今回紹介するヘンデルのオペラ『Agrippina』だ。

 幕が上がると舞台中央に出てくるのが、巨大なチーズを切り分けたかのような黄色い塊。背の部分が階段状の斜面になっていて、その頂上部分に肘掛けの付いたローマ皇帝の椅子が据えられている。そこに自分の連れ子ネロを座らせたい、というのが現皇帝の妻アグリッピーナの野望。その実現のために陰謀を巡らし……。
 18世紀初頭にイタリアで作られたヘンデルのオペラ『Agrippina』は、そんな話。ローマ帝国を舞台にしているが、初演当時のローマ教皇を揶揄したとも言われているという、ブラックな政治喜劇。その精神は現代にも充分すぎるほど通じるもので、欲望のままに動く登場人物たちの姿は、今のアメリカなら誰、日本なら誰、と具体的にダブって見えてきたりもするほど。展開も快調で、観ていて飽きることがない。

 ヘンデル(作曲)のオペラ、と言われても、オペラ通でない者にとってはピンと来ないが、初演当時は大人気の作品だったらしい。実際、音楽的にも聴きどころが多く、凝らされた技巧も楽しい。にもかかわらず、ヘンデル没後、歴史の彼方に置き去りにされてしまっていた、というからクラシック世界の人気も移ろいやすいのか。それが20世紀になって再発見され、新演出による様々な上演が注目を浴びてきている、というのが『Agrippina』の今。歌舞伎で言えば、毎年1月に菊五郎劇団が国立劇場で上演する復活狂言のような存在だ。

 今回のヴァージョンも、MET初演にして新演出。演出家はMETでも実績のあるスコットランドのデイヴィッド・マクヴィカーで、振付のアンドリュー・ジョージ、装置のジョン・マクファーレン、照明のポール・コンスタブルら、イギリス勢のスタッフを結集して舞台上に作り出したのは、古代ローマの遺跡の中で1950年代的なファッションの人々がうごめく蠱惑的な世界。色彩的にも、内容に呼応するような腐敗一歩手前の美しさがある。

 主演のアグリッピーナ役ジョイス・ディドナートは、ヘンデルを得意とする超一流のメゾソプラノ。欲深い陰謀家をシニカルに演じて舞台を引っ張る。
 ディトナートと並んで際立つのがケント・リンジー。やはりメゾソプラノの女性だが、演じるのはアグリッピーナの息子ネロ(ネローネ)。ジェンダーを超えた神経症的な人物像は怪演と呼ぶにふさわしく、強い印象を残す。
 他に、アグリッピーナの陰謀の核になるフェロモン系ポッペア役のブレンダ・レイ(ソプラノ)、その罠にハマる軍人オットーネ役のイェスティン・デイヴィーズ(カウンターテナー)、皇帝クラウディオ役マシュー・ローズ(バス)、といった面々がそれぞれの見せ場で個性を発揮。物語の中を右往左往しながら楽しませてくれる。

 知名度は高くないが、一度観たら忘れられなくなるブラックなオペラ『Agrippina』を字幕付きで楽しめるという、めったにない機会。お観逃しなく。>

 上掲写真ポスターのアグリッピーナ役ジョイス・ディドナートから『The Hours』のヴァージニア・ウルフ役は、まず想像がつかない。

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