The Chronicle of Broadway and me #1015(Porgy And Bess)

2020年1月~2月@ニューヨーク(その7)

劇場前のポスター

 『Porgy And Bess』(2月1日13:00@Metropolitan Opera House/Lincoln Center)についての観劇当時の感想。
 

 全日程ソールドアウトになった2019/2020シーズン最高の人気作。観劇日が最終公演の予定だったが、人気のあまり、3回の追加公演が出た。
 充実した舞台の感想は、MEN’S Precious WEB版にアップ。そこにも書いたが、日本でもMETライブビューイング@映画館で4月3日~4月9日に観ることができる。
 ちなみに、ライブビューイングで上映されるパフォーマンスは観劇日に収録されたもの。オーケストラ席にいる日本人が映ったら、それは私かも(笑)。
 

 [追記]

 上掲リンク先の記事をブログ仕様にして以下に転載します(<>内)。
 「ゴスペル・ライクなコーラスと、多彩な歌手の魅力!躍動的で彩りも美しいアメリカーナ・オペラ!」のタイトルで2020年2月に公開されていたものです。

<短い序曲が終わらぬうちに薄い幕が上がると、ほの暗い中に骨格と屋根だけの二階家とそこに佇む人々が、ちょうどゴッホの「夜のカフェテラス」や「星月夜」を思わせる淡い青と黄を基調にした、くすんだ鮮やかさとでも言うべき美しい色合いで浮かび上がる。そして、序曲から途切れることなく歌いだされる「サマータイム」。それを包み込む柔らかいが厚いコーラス。
 METに久々に登場した『Porgy And Bess』の世界は、そんな風に始まる。

 ジョージ・ガーシュウィン(作曲家)が、デュボーズ・ヘイワードの小説「Porgy」並びに彼が妻ドロシーと共同で書いた同名のプレイを元に、作詞に兄アイラを加えて作ったのが、ジョージ自らが「フォーク・オペラ」と呼んだ『Porgy And Bess』。20世紀初頭のサウス・キャロライナ州チャールストンにある漁師の集落を舞台に、足の不自由な男ポーギーと荒くれ者の情婦だったベスとの愛情が描かれる。
 初演は1935年9月のボストンで、同年10月にブロードウェイで幕を開けている。その後ブロードウェイだけでも7回のリヴァイヴァル上演が重ねられた、世界的な人気作だ。

 MET初登場は1985年。そのナサニエル・メリル演出ヴァージョンは1990年まで4シーズンにわたり上演される人気作だったが、約30年ぶりに帰ってきた今ヴァージョンは、これがMETデビューとなるジェイムズ・ロビンソンによる新演出。オペラとしての『Porgy And Bess』の原点に戻りつつ、今日的で新鮮な感覚の舞台づくりがなされている。
 単なるポーギーとベスの悲恋物語ではなく、近代化の波にさらされるブラック・コミュニティの群像劇の印象が強まっているのは、ロビンソンの新たな演出意図の表われだろう。
 それを支えるのが、プリミティヴさを随所にのぞかせるゴスペル・ライクなコーラスとカリブ海経由のアフリカ色濃厚なダンス。ことに、柔軟で多様な表情を持つコーラスは全編にわたって作品の濃密な空気を醸成して素晴らしい。ちなみに、ダンスの振付は昨年ブロードウェイ・プレイ『Choir Boy』でトニー賞にノミネートされた若き才能カミール・A・ブラウン。

 もちろん、ソロの聴き応えは充分。しかも、多彩。
 ポーギーのエリック・オーウェンズ(バスバリトン)、ベスのエンジェル・ブルー(ソプラノ)の他、「Summertime」を歌うクララ役ゴルダ・シュルツ(ソプラノ)、「My Man’s Gone Now」を歌うセリナ役ラトニア・ムーア(ソプラノ)、「It Ain’t Necessarily So」を歌う悪役スポーティン・ライフを演じるフレデリック・バレンタイン(テノール)等、それぞれのハイライト・シーンで、聴かせ、魅せてくれる。
 主要キャラクターではない物売り(いちご売りとカニ売り)の歌声が楽しい場面等もあり、全編にわたって飽きることがない。

 そして、最初に書いたように、装置、衣装、照明が一体になった舞台全体の、ほの暗く淡いけれども鮮やかに感じる色彩感が美しく、心に染み入る。一転、中盤のピクニックに行く島では明るくポップなセットも登場。印象に残る。

 そんな風に様々な面で成果を上げている今回の新演出版を観て、音楽的に強く感じたのは、作品に流れるガーシュウィンの「フォーク・オペラ」的感覚が、例えばこの3月に来日するリアノン・ギデンズに代表されるような現代のアメリカーナ音楽の作り手と直接つながっているということ。そこには、アメリカ音楽の歴史に対する今日的な視線がある。

 METで観るアメリカ産オペラ『Porgy And Bess』は、やはり格別。ライブビューイング上映も人気になること必至だろう。どうかお観逃しなく。>

 2012年ブロードウェイ版の感想はこちら

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