The Chronicle of Broadway and me #1010(West Side Story)

2020年1月~2月@ニューヨーク(その2)

 『West Side Story』(2月4日20:00@Broadway Theatre)についての観劇当時の感想。
 

 舞台の『West Side Story』はシティ・バレエの『West Side Story Suite』で充分だと思っていた。演出・振付のジェローム・ロビンズ自身が『West Side Story』のダンス・シーンをつなげて作ったバレエ組曲で、歌も入っている。これ以上はいらない。要するに、ドラマ部分がかったるいと思っていたのだ。
 2009年のブロードウェイ・リヴァイヴァルは、スペイン語混じりにすることで現実感覚を導入し、その辺を解消しようと試みていて好感を持ったが、今回のリヴァイヴァルはもっと鋭く切り込んでくる。

 その新たなリヴァイヴァル版についての記事をこちらに書きました。ご一読ください。

 [追記]
 上掲リンク先MEN’S Precious WEBの記事(2020年3月9日掲載)をブログ仕様にして以下に転載しておきます(<>内)。記事のタイトルは「挑戦的手法で「今」を描こうとする新たな『ウエスト・サイド・ストーリー』」です。

<昨シーズンのリヴァイヴァル版『Oklahoma!』の斬新な演出にも驚いたが、今回の『West Side Story』もまた、驚くべきリヴァイヴァルに仕上がっている。なので、まずは予備知識なしにご覧になることをオススメする。ここから先は、何が「驚くべき」なのかを知ってから観たいという方のための紹介です。

 馴染みの序曲がフル・オーケストラによる豊かな音像で鳴り始めると、何のセットもない舞台の最前列にジェッツとシャークスと覚しき男性キャストがずらりと並ぶ。序曲が、映画版で言えばマンハッタンの空撮からビルの谷間のバスケットボール・コートにズームインして、たむろしているジェッツの連中のフィンガースナップのアップになる辺りまで進むが、舞台上では誰も動かない。序曲も中盤になった頃、少しずつダンスが始まり、しだいに激しさを増していく。それは、やがて両グループの乱闘シーンになっていく。
 これだけなら驚かない。新しい振付なんだな、と思うだけだ。
 驚くのは映像使い。まず、舞台に並んで静止したままのキャストの顔が舞台後方の壁に大写しになる。その映像は、向かって左端のキャストから右端のキャストへと移動していく。緊張感が漂う中、動き始めたキャストを、今度はモバイルを含む複数の小型カメラで自在に追い、その映像が舞台上で踊る(争う)キャストの後ろの壁にアップで映り続ける。

 ブロードウェイ・リヴァイヴァル版『West Side Story』の幕開けは、そんな風。振付も新しいが、映像使いの大胆さに驚く。詳細は省くが、その手法は、ユニークなセットと共に多岐にわたり、全編に及ぶ。
 これまでにもリアルタイムの映像使いをする作品は少なからずあったが、ここまで徹底したものは初めてだろう。その執拗さに開幕してしばらくは気圧される気分だが、観ている内に、それが単なる新奇な試みではなく、舞台と客席の乖離を拒む意志ではないかと感じ始める。そうやって、「古典」を「今」のニューヨークの街中に蘇らせようとしているのではないか、と。

 レナード・バーンスタイン(作曲)×スティーヴン・ソンドハイム(作詞)×アーサー・ローレンツ(脚本)×ジェローム・ロビンズ(演出・振付)という4人のレジェンドの作った『West Side Story』は、1957年の初演以来、リヴァイヴァル版もロビンズの演出・振付に則って上演されてきた。リン=マニュエル・ミランダ(『Hamilton』)が絡んだ、一部をスペイン語に変換しての2009年のユニークなリヴァイヴァルも基本的にはそうだった。そうしたあり方が、時の経過と共に、この作品から現在性を奪ってきたのは否めない。
 そのロビンズの呪縛から解放された今回のリヴァイヴァルは、半世紀を超えてなお、バーンスタインとソンドハイムの楽曲が博物館の展示物ではなく今のニューヨークでも生きていることを、乱暴とも思える手法で証明しようとしているように見える。
 ちなみに、マリアが夢見がちに歌う「I Feel Pretty」がカットされているのは、その流れから言ってやむなしだと思う。逆に、これまでは違和感を覚えていた威圧的な巡査をユーモラスに揶揄する「Gee, Officer Krupke」が今日的に感じられるのも、その方向での演出だからだろう。かなりパンキッシュだ。

 演出イヴォ・ヴァン・ホーヴェ、振付アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルは共にベルギー出身。映像担当は、ロンドンで話題を呼び3月にブロードウェイにやって来る『The Lehman Trilogy』でも効果的な背景を作り出したルーク・ホールズ。今回、リアルタイムな映像だけでなく、背景に使われる「今」のマンハッタンの深夜の街路を写した映像も考え抜かれた作りで印象に残る。

 もし今、全くの新作として『West Side Story』を作ったらこうなるのではないか、というひとつの回答が、ここにある。>