The Chronicle of Broadway and me #1021(The Unsinkable Molly Brown)

2020年2月@ニューヨーク(その3)

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 『The Unsinkable Molly Brown』(2月21日19:30@Abrons Arts Center)について書いた観劇当時の感想(<>内)。

<楽曲作者メレディス・ウィルソンによる1960年初演のブロードウェイ・ミュージカル。1年3か月ほどのロングランで、その後今日までブロードウェイでのリヴァイヴァルはない。
 1964年に映画化されている。デビー・レイノルズ主演、チャールズ・ウォルター監督のMGM作品(邦題:不沈のモリー・ブラウン)。MGMミュージカルの黄金期が去り、舞台のヒット作を大型ミュージカル化して勝負するようになった時期の映画だ。
 メレディス・ウィルソンと言えば1957年初演の『The Music Man』。その映画化は1962年。それがヒットしたんで、次作であるこの作品も映画化されたのだろう。だが、ウィルソンの楽曲は、雰囲気は似ているが前作より劣るという印象。『The Music Man』にあった、幕開けのラップのような「Rock Island」、テーマ曲でもある「Seventy Six Trombones」、ビートルズにもカヴァーされた美しい「Till There Was You」に相当する“記憶に残る”楽曲が見当たらない。悪くはないが、決め手に欠けるのだ。
 それを、なぜ今リヴァイヴァル上演するのか?

 と言う前に、そもそも、なぜ「不沈」かと言うと、ヒロインのモリーことマーガレット・ブラウンがタイタニック号に乗っていて助かったから。助かったのみならず、自分の乗った救命ボートを引き返させて、さらなる救命を図ろうともしたらしい。実話であり、実在の人物。ジェームズ・キャメロン監督映画『Titanic』ではキャシー・ベイツが演じていた。
 そのエピソードは終盤に出てくるが、そこに到るまでは、山出しの無教養な女性が強い向上心で学習しつつ、男性と対等に主張し合い、志のある鉱山労働者と結婚した後、金鉱で文字通りひと山当てて金持ちに……という波乱に富んだ半生が描かれる。
 「山出しの~」から想像がつくように、ヒロイン像は『Annie Get Your Gun』(アニーよ銃をとれ)に似ている部分がある。男性と張り合う点も似ている。違うのは、女性の権利拡大に尽力した、ある意味「MeToo」の先駆者と言ってもいい人だというところ。
 その辺りが今回のリヴァイヴァルの意図かな、と思いながら観ていた。

 そうこうする内に、タイタニック事件が起こる。
 小さな劇場なので大掛かりなセットの転換とかはなく、椅子やテーブル等をうまく使い、時にはそれらを何かに見立てて場面を変えていくのだが、その小回り可能なセットを生かして、乗船から(沈没に到るパニックは省いて)いきなり海上を漂う救命ボートのシーンに移る演出がうまい。この後、ヒロインが海に落ちた乗客の救助に向かうことを主導するシーンがあり、ヒロインのモノローグがあり……。でもって別の大型船に救助されて(ここも具体的な描写を省略する展開がいい)ニューヨークに入港。ここで今回のリヴァイヴァルの肝と思われる場面が出てくる。
 海外からの渡航なので、みんな疲弊しているにもかかわらず入国審査が厳密に行われる。そのせいで長い列ができているのだが、それを見たヒロインが、こんな場合なんだから無審査で入れたらどうだ、と入国管理官に言う。そうはいかないと答える管理官に、「あんたの親はどっから来たの? その親は? みんな移民だったでしょ?」
 おー、この啖呵をアメリカの現状の中で切らせたかったんだな、と、ここに来て納得。

 主演は『Fun Home』の語り部アリソン役だったベス・マローン。溌剌として魅力的。
演出・振付はキャスリーン・マーシャル。彼女らしい、安定した仕上がり。

 前述したように小さな劇場だが、舞台下に小さなオーケストラ・ピットもあって味わいがある。4月5日まで。>

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