The Chronicle of Broadway and me #377(Barbara Cook’s Broadway!/Here Lies Jenny)

2004年7月@ニューヨーク(その4)

 素晴らしい2人のミュージカル俳優のショウについて。

 『Barbara Cook’s Broadway!』(7月14日20:00@Mitzi E. Newhouse Theater)は、この年の3月19日プレヴュー開始、3月28日正式オープン、4月18日クローズという日程で金曜夜&土日昼の週末にだけリンカーン・センター内ヴィヴィアン・ボーモント劇場で行なわれた期間限定のショウ(同時期に同劇場で上演されていたストレート・プレイ『King Lear』公演の合間に開催されていたようだ)の、劇場の規模をひと回り縮小してのアンコール上演……の、さらなるアンコール公演。
 同じリンカーン・センター内の一階層下にあるミッヅィー・E・ニューハウスに移っての公演は、アンコール上演と言いながら、ヴィヴィアン・ボーモント劇場での公演がプレヴューを含めて週末のみの4週間12公演だったところを、4週間という期間は同じながら、6月1日から26日までの月~土の夜連日というスケジュールで都合23公演という、数にして倍の規模で行なっている。劇場の規模が小さくなってはいるが、興行としてはともかく、1公演における歌い手の負担は変わらないわけだから、この時御年76歳のバーバラ・クック、それだけですごい。しかも、それが好評だったからだろう、7月12日から24日までの再々上演となって観ることができた、と、そういう公演。
 ピアノ/音楽監督がウォーリー・ハーパー、ベースはピーター・ドノヴァン。演出家の記載はない。

 『Candide』(1956)、『The Music Man』 (1957)、 『She Loves Me』 (1963) のブロードウェイ初演オリジナル・キャストであるバーバラ・クックを生で観たのは、この時が初めて。
 その4年後、2010年10月にNYMF(ニューヨーク・ミュージカル・シアター・フェスティヴァル→後にニューヨーク・ミュージカル・フェスティヴァルと改名)の一環でTV版『Bloomer Girl』(1956)の上映が行なわれたことがあり、同作の主演者としてその場に来ていたクックを観たのが2度目。それから7年後に亡くなっている。

 なお、ヴィヴィアン・ボーモント劇場での公演が録音され、CDとして発売されている。配信でも聴くことができる。
 

 『Here Lies Jenny』(7月15日23:00@Zipper Theatre)は、ビビ・ニューワースがクルト・ヴァイル作曲の様々な時代の楽曲を歌い、踊るショウ。……ではあるが、MCなしで一編のドラマ仕立てになっているのが特徴。なんとも味わい深い舞台だった。

 タイトルの通り、ニューワースが演じるのはジェニーという名の女。
 クルト・ヴァイル作品でジェニーと言えば、『Threepenny Opera』(原題:Die Dreigroschenoper)で主人公メッキーを警察に売り渡す元恋人の娼婦のことが浮かぶが、ニューワースもそんなイメージで登場。『Chicago』のヴェルマとはやや異なるが、やはり黒づくめの下着に近いような衣装だ。
 舞台上にはピアノが1台あり、設定はバー。ジェニーの他には危なそうな男の客が2人、それにバーテンダーとピアノ弾き。プレイビルによれば、ジム、ジョルジュ、ジョン、ジョーと全員にJで始まる名前が付いている。時代も国も不明だが、ヴァイル・ナンバーが歌われると、1920年代から’30年代のヨーロッパの気配が生まれる。
 「ドラマ仕立て」と書いたが、はっきりした筋があるわけではなく、ジェニーを巡って男たちがいざこざを起こして……といった程度の展開だったと思う。が、ニューワースのハスキーな歌声と、アン・ラインキング振付による男性ダンサーを交えての濃厚なダンスとが退廃の空気を醸し出し、目が離せなくなる。そんな舞台。

 これも『Barbara Cook’s Broadway!』の最初の頃に似て木金土だけ、それも夜11時からの上演という公演で、その深夜の限定感が作品の雰囲気をいっそう独特なものにしていたと思う。5月7日プレヴュー開始、5月27日正式オープン。
 ただし、7月24日までその日程で行なわれた後、翌週の水曜7月27日からは水曜~土曜の8時+日曜7時という拡大&観客の来やすいスケジュールに変わっている。で、延長を重ねて9月26日まで続き、そこからさらに1週間延長して10月3日まで上演されたようだ。

 原案・演出はロジャー・リーズ。『A Man Of No Importance』で主人公を演じていた人。
 ジョーという名のピアノ弾きは、リヴァイヴァル版『Chicago』の初代ピアノ奏者で、指揮者を務めたこともある女性レズリー・スティフェルマンだったが(ここでは音楽監督も兼任)、観た日はクリス・フェンウィックという男性が代役に。この後、正式に入れ替わったらしいから、交替の調整時期だったのかも。ただ、このピアノ弾きが女性か男性かで、いくぶん気配が変わるだろうな、と当時思ったのを覚えている。

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