The Chronicle of Broadway and me #965(My Very Own British Invasion)

2019年2月~3月@ニューヨーク(その7)

IMG_1068

 『My Very Own British Invasion』(2月28日13:30@Paper Mill Playhouse)について書いた観劇当時の感想(<>内)。

<原案は、1960年代中頃に人気絶頂だったイギリスのバンド、ハーマンズ・ハーミッツのリード・シンガー、ハーマンことピーター・ヌーンで、主人公は若き日の彼という設定になっている。
 主要な舞台となるクラブ、バッグ・オーネイルズ(Bag O’Nails)もロンドンに実在。’60年代当時、アフターアワーズ的に有名ミュージシャンたちが立ち寄って、気楽なギグも行われていたところらしい。ポール・マッカートニーがリンダ・イーストマンと知り合ったのは、ここだとか。ただし、この作品のようにビートルズ全員が来ていたかどうかは定かではない。いや、その前に、劇中、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴと名乗ってビートルズの楽曲を歌う4人がいるが、彼らがレノン、マッカートニー、ハリスン、スターかどうかもはっきりしていない。その他にも、けっこう実在の人物(と同名の人物)が出てくるが、サブタイトルに「ロックと愛の音楽的寓話」とあることからして、どこまで実話かわからない。
 メイン・タイトルの頭にある「My Very Own」は、日本語に訳すと「極私的」か。つまりは虚実ない交ぜの、かなり主観的かつ妄想的な物語という解釈でいいのだろう。

 プロ・デビューしていたものの、まだ10代だったピーター・ヌーンが、例外的にバッグ・オーネイルズに入店を許され、そこで出会ったパメラという、やはり10代の歌手に恋をする。ところが、そこにはトリップという強力な恋敵がいて……、というのが大筋。
 当初は、イギリス産’60年代ヒット曲を物語に合わせて使った、バッグ・オーネイルズ周辺でのこぢんまりした恋の鞘当て話になるのかと思ったが、意外にも、ブリティッシュ・インヴェイジョンの波に乗ってパメラが演奏旅行でアメリカに渡り、クスリだかアルコールだかでヤバいことになるという展開を見せる。そんなパメラをピーターが救いに行くというひと幕が山場になるわけだが、これが案外盛り上がらない。と言うのも、ひと悶着あるにはあるが、案外あっさり助け出してロンドンに連れ帰るからで、その後の、ハッピーエンドかと思わせておいてパメラの心変わりで主人公がフラれるという結末も、かなり唐突であっけない。
 加えて、その辺りの流れがキャメロン・クロウ監督映画『Almost Famous』(邦題:あの頃ペニーレインと)のパチモンのようでもあり、なんだかなあ、という気分になる。そもそも、ってことで言うと、ピーターのキャラクターが子供子供していて魅力に乏しいのが、まず痛い。

 脚本は『Jersey Boys』を手がけた2人の片割れリック・エリスだが、元が必ずしも実話でないせいか、同作に比べると全体にかなり緩い作り。アメリカ演奏旅行でパメラがダウナーになるくだりも、あまり説得力がない。
 時代考証も、けっこうルーズ。プログラムに1964年から1966年の話と書いてあるのに、恋敵のトリップがイカレたロック歌手な風貌、歌唱法で、どちらかと言えば’60年代末以降の人間に見えたりするし。’68年の「Born To Be Wild」が歌われちゃったりするのも、そう。ま、それらも含めて「寓話」ってことかもしれないが。

 演出・振付は『Kinky Boots』『Pritty Woman: The Musical』がブロードウェイで絶賛上演中のジェリー・ミッチェル。テンポ速めのヒット曲を多用し、ゴーゴーを基本とするノリのいい’60年代風ダンスを次々に繰り出して盛り上げようとするが、脚本の緩さを補うところまでは到らない。
 セットをバッグ・オーネイルズ店内の据え置きにしたのもマイナス。プロジェクター使いで違った場所に見せるという手法を採ったが、あまり効果が上がらず、変化に乏しい印象を生んでしまった。

 全体が停滞しがちな中、1人だけいきいきしていたのが、トリップを演じたコナー・ライアン。オフの『Desperate Measures』ではアタマのネジの緩んだワイルドなガンマンを演じて大いに笑わせてくれたが、ここでのキャラクターもそれに近い。前述したように’60年代末以降の、あるいはさらに飛んで、ミュージカル『Rock Of Ages』の舞台になった’80年代的ライヴ・ハウスから抜け出てきたようにすら見えるイカレたロック歌手として、際立った個性を発揮していた。
 それが作品にとってよかったのかどうかは不明だが、彼がいなければ舞台はもっと退屈になっていただろう。逆に考えると、緩い流れにカツを入れるための破格のキャラクター作りであり、役者の起用だったのかもしれない。

 ここで、今さらのようにブリティッシュ・インヴェイジョンについて説明すると、「1960年代中期、ビートルズのブレイクをきっかけに起こった、イギリス産ビート・ミュージックとその周辺の若者文化がアメリカを席巻した事象」のこと。その影響は当のイギリスにも跳ね返っていたんだなと改めて気づかされるのが、この作品の取り柄と言えば取り柄か。
 「ワールド・プレミア」と銘打たれているが、ウェスト・エンドならともなく、このままでブロードウェイにまで来ることは、まずないだろうと思われる。>

The Chronicle of Broadway and me #965(My Very Own British Invasion)” への1件のフィードバック

コメントを残す