The Chronicle of Broadway and me #196(Secrets Every Smart Traveler Should Know)

1999年1月@ニューヨーク(その10)

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 『Secrets Every Smart Traveler Should Know(1月4日20:00@Ibis Theatre)について、「パッケージ旅行的平凡さ」のタイトルで旧サイトに書いた感想。

<あるテーマに沿って書かれた“ショウ場面入りスケッチ(日本で言うところのコントに近い)集”というスタイルのミュージカル・レヴューがある(本来“レヴュー”というのはそういうものらしいが)。一貫したストーリーを持つ、いわゆるブック・ミュージカルが主流になる前は、ブロードウェイでも多く作られていたようだが、今ではもっぱらオフに登場する。
 上演中のもので言えば、『I Love You, You Are Perfect, Now Change』がそうで、テーマは結婚をめぐる男女の思いのすれ違い。『Forbidden Broadway』シリーズもそうだな。こちらのテーマは、もちろんブロードウェイ・ミュージカル。
 この『賢い旅行者が知っておくべき秘訣集』(直訳)もそのスタイルのショウで、タイトルがそのままテーマになっている。
 オフのこの種のショウはよくまとまっていることが多く、そんなところにもアメリカン・ミュージカルのノウハウの厚みを感じるが、この作品も例外ではなく、スケッチごとに笑いを取り、全体の構成も悪くない。しかし、破綻がないのと同様に興奮もない。何か“熱”のようなものが感じられない、印象の薄い舞台だった。

 原因は題材そのものにあると思う。
 旅行にまつわるトラブルやおかしな出来事は、時にカルチャー・ギャップをえぐり出して興味深いが、この舞台に登場するのは、あくまでアメリカのホワイトカラー白人的視点から見て笑えるエピソード。気分としては、’50年代から’60年代半ば頃のアメリカのTV ヴァラエティ・ショウといった感じなのだ。
 そうした色合いは、ミッドタウンの外れにあるレストラン・シアターでの上演という条件と密接に絡み合っていると思われる。こういう内容のショウだからこうしたレストラン・シアターでの上演を望んだのか、こんなレストラン・シアターの出し物だからこういう内容になったのかはわからないが。

 出演者は男女2人ずつの役者+ピアニスト&ベーシスト(このベーシストが、第1幕、第2幕で1曲ずつ自作曲を渋く歌ってウケた)。こんな小規模なショウでも、とりあえずみんな達者なのには、いつもながら驚く。とは言え、さすがに華はないが。
 各幕の最初と最後は全員が登場するが、その他の場面はだいたい1人ないし2人で演じられる(3人というのが第2幕に2回だけある)。おわかりだと思うが、出ていない間に衣装替えをしなければならないからだ。

 基本的には、旅行者が出会う様々な状況をおかしく描いた“ショウ場面入りスケッチ”が並んでいるわけだが、それらをまとめ上げるのに、ショウ全体が観客を乗客に想定したフライト、というコンセプトを使っている。そのため、時折、客席に向けて機長からのアナウンスが入る。
 そのコンセプトに沿って、航空会社への電話予約がうまくいかない、というネタも繰り返し登場する。受け付ける相手とやりとりのズレがエスカレートしていくという内容。
 印象に残った場面は、始まってすぐ、タイトル曲を全員で歌った後のナンバー「Naked In Pittsburgh」。今までそこで歌っていた男の1人が、いきなり股間にバスタオルを当てただけの姿で登場したのに驚いた。つかみはOK ってことですか。
 もう1つは、ノエル・カワードのコメディ『Private Lives』をもじった「Private Wives」の場面。『Moon Over Buffalo』の劇中劇で演じられたパロディを観ていたのでわかったが、元ネタとして引用されることが多いのだろうか。それともオリジナルが浸透しているのか。でなきゃ、観光客相手のショウで使ってもウケないと思うのだが。

 こういうショウなら日本でもすぐに作れそうに思うのだが、実際にはなかなかそうもいかない。と言うのも、この規模にもかかわらず、例えばスケッチと楽曲の作者だけで、13人が参加していたりするからだ。
 どんなに小さなショウでも、プロとして作るからには可能な限りいいものを作ろうとする姿勢。学ぶべきは、これだと思う。>

 感想の転載にあたって、スタッフの件をプログラムで確認しようとしたが、見つからない。……のでウィキペディアに頼るが、楽曲作者はダグラス・バーンスタインのみが作曲兼作詞で記載されている(『Hello Muddah, Hello Faddah!』の発案者兼脚本家の1人だった人)。そして、脚本家としては4人の名前が挙がっているだけ。13人には遠く及ばない。
 この作品、やはりウィキペディアによればだが、2年前の1997年に、72丁目にあるトライアド劇場で幕を開けた後に、このアイビス劇場に移っている。その間に作者が8人加わるということがあるだろうか。いずれプログラムを見つけて再確認したい。

(追記)
 プログラム発見。プログラムと言っても1枚の紙の裏表印刷だが。「Songs and Sketches」に13人記載されていました。せっかくなので、全員の名前を。
 最初にダグラス・バーンスタインがあり、以下、フランセスカ・ブルメンダル、マイケル・ブラウン、バリー・クレイトン、レズリー・デイヴィソン、アディ・フィーガー、スタン・フリーマン、デイヴ・フリッシュバーグ、マーレイ・グランド、グレン・ケリー、ジェイ・レオンハート、デニス・マーケル、ニック・サンタ・マリア。
 演出パトリック・クィン。

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