The Chronicle of Broadway and me#1065(Mira Nair’s Monsoon Wedding The Musical)

2023年5月~6月@ニューヨーク(その9)

 『Mira Nair’s Monsoon Wedding The Musical』(6月3日14:00@St. Ann’s Warehouse)は、2001年に制作されたインドが舞台の同名映画の舞台ミュージカル化。タイトルの冠になっているミーラー・ナーイル(インド出身)が、元の映画の監督であり、この舞台の創案・演出家でもある。

 プログラムにナーイルの言葉が載っていて、自分は舞台でキャリアをスタートさせたが、しばらく映画の仕事をした後に舞台の世界に帰ってきてみたら、西洋の物語ばかり見せられるのでうんざりした、と言っている。「なぜ私たち自身の『Fiddler On The Roof』を持つことができないのだろうか」と。
 その志に沿って、この舞台では、ミュージカルという表現方法にインドの音楽やダンスや生活感/人生観を見事に溶け合わせたパフォーマンスを見せてくれる。その背景には、やはりショウ場面を多用するボリウッド映画の歴史があるのだろうと想像する。ほぼ(完全にか?)全員インド系の出演者も含め(みんな達者)、“アメリカン・ミュージカル”を自家薬籠中の物とした上での“インディアン・ミュージカル”という独自のスタイルを確立している感が強く、感銘を受けた。

 時代は現代だが、新しい価値観を持ち始めている娘たち(息子も1人いる)の結婚と家の伝統を守ろうとする父親、という構図は、確かに『Fiddler On The Roof』と似ていなくもない(ただし、こちらの一家は金持ち)。同時に、そこにフェミニズムやセクシャル・ハラスメントの要素が絡み、インドならではの階層や宗教の違いによる周辺人物たちのあれこれも並行して描かれる。娘の結婚相手がインド系アメリカ人なので、母国とアメリカに住むインド系の人々の考え方の違いも表れてくる。
 そうした多様な要素を持つ物語を、シリアスとユーモラスのバランスもほどよい塩梅でテンポよく展開させていく。あくまでエンタテインメントの範囲内ではあるが、現実に横たわる社会問題を浮き彫りにするあたりも、ある意味『Fiddler On The Roof』的か。

 作曲ヴィシャール バードワジ、作詞はマシ・アサリとスーザン・バーケンヘッド(『Jelly’s Last Jam』『High Society』『Triumph Of Love』The Secret Life Of The Bees)。シタールやタブラ―などを効果的に使った音楽が魅力的。
 脚本はアルピタ・マッカージーと映画の脚本も手がけたサブリナ・ダワン。

 6月25日までの期間限定。
 劇場の場所はブルックリン・ブリッジのブルックリン側のたもと。12年半ぶりに行ったが、再開発で周りが観光地化していて驚いた。

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