おとこたち@パルコ劇場 2023/03/24 13:30

 いやあ面白かった。
 ある意味、老人のためのミュージカル。
 しかも、ミュージカルとしての在り様の中にミュージカルそのものに対する批評性を含む。ただし、だからといって、例えば『Something Rotten!』のように作品そのものがミュージカル愛好家に向けた捻じれたパロディになっていたりするわけではなく、あくまで「自分たち流のミュージカルですけど何か?」的な手法が現状のミュージカルに対する批評性を孕んでいる、といった風情(その点に関しては同じく前野健太の音楽で作られた2019年の『世界は一人』以上に刺激的)。
 といったあれこれが、昨今の舞台ミュージカルの多くに必ずしも満足できないでいる、かつ老人の範疇に足を踏み入れている自分の個人的なツボにハマったという面があるにはあるが、それにしても面白かった。そして恐ろしかった。

 元になった同名のストレート・プレイは、脚本・演出の岩井秀人が主宰する劇団ハイバイが2014年に初演、2016年に再演ということらしいから、当初の時代想定は昭和から平成ということなのだろう。それを今回のミュージカル化にあたり書き直しているのかどうかは不明だが、この”逃げ場のない空気感”は紛れもなく”今”のものだ。

 学生時代の友人である「おとこたち」4人の大学卒業から老齢に到るまでの物語。……なのだが、最初はわからない。
 主演扱いのユースケ・サンタマリアが素で出てきて、世間話めいた口上を普段の語り口調で述べた後、そのまま芝居に入る。その時点での舞台上の設定は、どうやら老齢者用の施設らしい。報酬は昼飯ってことで手伝いにきたのだ、と観客に向かって自分の立場を説明するユースケ。でも、まだ昼飯食わしてもらってないんだけどね。いやいや山田さん(ユースケの役名)、さっき食べられてましたよー、と応えるのは施設の職員を演じる藤井隆。2人の間で押し問答が繰り返される内に、どうやら山田さんもその施設に入居している老人だとわかってくる。そして始まる山田さんの回想。
 そんなトリッキーな導入部によって観客は、謎に包まれた気分のまま現実から一気に作品世界に持っていかれる。そして、その後も、山田さんと友人たち及びその周囲の人々の、一見普通に見えて一筋縄ではいかない人生の謎が次々に暴かれていき、少しばかり重苦しい気持ちになりながらも目が離せなくなる。
 昭和の気配を引きずる「おとこたち」の物語だけに、当初は彼らの言動にジェンダー差別的な匂いが感じられたが、それは中盤でガッツリとやり込められる。「おとこたち」の物語であると同時に「おんなたち」の物語でもあることがわかって、話はいっそう深まっていく。

 前野健太の音楽は、カラオケで盛り上がるようなJポップ的なものから、歌い上げるバラードやセリフをラップ的に乗せるグルーヴィなオルガン・インスト調のものまで多彩。もっとも、歌い上げるバラードと言ってもマトモに聴かせるとは限らないし、ラップ的に乗せるはずのセリフがリズムに乗りきれなかったりもする。それがいい。
 演奏は舞台奥にいる佐山こうた(キーボード)と種石幸也(ベース)の2人。

 4人のおとこたちを演じるのが、ユースケ・サンタマリア、藤井隆、吉原光夫、橋本さとし。彼らに関わるおんなたちを演じるのが、大原櫻子、川上友里。他に、梅里アーツ、中川大喜。
 藤井隆が施設の職員に扮したように、全員が複数の役を演じる。

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