The Chronicle of Broadway and me #262(A Connecticut Yankee/Time And Again)

2001年2月@ニューヨーク(その3)

 『A Connecticut Yankee』と、翌日に観る『Time And Again』とは、同じ建物(シティ・センター)の上と下にある劇場で上演されていただけでなく(まあ、そのことと関係あるのだが)、共通点の多い公演だった。旧サイトに感想を書いていないので、プレイビルを頼りに記憶をたどってみる。

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 『A Connecticut Yankee』(2月9日20:00@City Center)は、シティ・センター恒例の期間限定(長い間リヴァイヴァル上演されていないブロードウェイ・ミュージカルの)リヴァイヴァル企画「アンコールズ!」シリーズの1つ。1927年初演のリチャード・ロジャーズ(作曲)×ロレンツ・ハート(作詞)作品で、原作はマーク・トウェインの小説。ブロードウェイでは1度だけ、1943年にリヴァイヴァル上演されている(ちなみに、リヴァイヴァル版開幕直後にロレンツ・ハートが亡くなっている)。

 1920年代後半のコネティカット。結婚を間近に控えた男が、彼の昔の恋人が現れたことに嫉妬した婚約者に殴られて卒倒し、なぜか6世紀半ばのアーサー王の宮殿にワープする。そこで、婚約者と昔の恋人、それぞれに瓜二つの女性といろいろあって、再び元の時代に戻り、本当に愛していたのは昔の恋人だったことに気づく。

 原作の大筋を借りつつミュージカルとしてウケる恋愛話にシフトさせた部分を強調して要約すると、そういうことになる。1889年に発表された社会批評性の高い原作の、いわば換骨奪胎。
 とはいえ、それが大恐慌直前に舞台ミュージカル化されたのは興味深い。なにしろ、その後アメリカで実行される「ニューディール政策」という名称は、この原作小説の中で主人公が提言する政策に由来しているのだから。まあ、なにかしら時代の空気というものがあったのだろう。
 そんな作品をネオリベラリズムに陰りの見えた2000年代初めのアメリカで再評価しようとする制作サイドに、原作の意図を多少なりとも汲もうとする気持ちがあったかどうか。仮にあったとしても、観劇時にはあまり感じられなかったというのが正直なところ。元々のミュージカルが全体に緩い感じだから、そこは致し方ないか。

 見どころは、悪女役クリスティン・エバーソールの歌う「To Keep My Love Alive」の場面。この曲はブロードウェイ・リヴァイヴァルの際に加えられてショウストッパーになったらしいが、この公演でも盛り上がった記憶がある。
 もう1つの有名曲「Thou Swell」でのユーモラスな良女(?)役ジュディス・ブレイザーも魅力的(と、これは最近ネットに上げられている「アンコールズ!」シリーズの同場面の動画を観て思ったこと)。

 演出のスーザン・H・シュルマンは、1989年リヴァイヴァル版『Sweeney Todd』(未見)でブロードウェイ・デビュー。ここまで『The Secret Garden』『The Sound Of Music』と実績を積んで、次が2005年の『Little Women』になる。
 振付がロブ・アシュフォードで、このシュルマンとアシュフォードのコンビが地下の劇場で手がけたのが、次に挙げる『Time And Again』

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 『Time And Again』(2月10日19:30@Manhattan Theatre Club)の原作は、1970年発行のジャック・フィニーによる同名小説。日本でも「ふりだしに戻る」のタイトルで、SF/ファンタジー分野のロマンティックな名作として名高い。
 なんでも、権利を持っていたロバート・レッドフォードが映画化を諦めたおかげで、この舞台化が成立したのだとか。確かに映画の素材としては魅力的だ。なにしろ、自由の女神を建てようとしている頃のニューヨークにタイムスリップする話だから。

 タイムスリップは『A Connecticut Yankee』の場合と違い、政府の秘密プロジェクトによる意図的なものではあるが、その(アナログというかアナクロというか)不思議な方法自体はファンタジー。小説では抒情性がそれに説得力を持たせるが、舞台化にあたっては『A Connecticut Yankee』同様、そこは重要ではない。重要なのは、小説の肝でもある、19世紀後半のニューヨークのリアルな描写。
 それを舞台でどう表現するのか。しかも、オフの小さな舞台で(シティ・センターの地下にある小劇場)。そこに興味の大半はあったわけで、勘所としては、小説でも印象的な自由の女神像の一部が街中に放置されている辺りだと思うのだが、残念ながら、音楽的にも演出としても、こちらの想像力を刺激して眼前にある光景以上のものを見せてくれるような作品ではなかった。

 楽曲作者はウォルター・エドガー・ケノン。脚本ジャック・ヴァーテル(「アンコールズ!」シリーズの芸術監督)。演出と振付は前述のように、スーザン・H・シュルマンとロブ・アシュフォード。
 ローラ・ベナンティが出演していたことは書いておく。

 [追記]
 ウォルター・エドガー・ケノンは、またの名をスキップ・ケノンといい、ネイバーフッド・プレイハウスというところで教師として、リン・アーレンズ&スティーヴン・フラハーティや、『Avenue Q』で共作したロバート・ロペスとジェフ・マークスらを教えた人らしい。

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