[Tony2020]トニー賞ノミネーション+(ちょっとだけ)予想

 2019/2020シーズンのトニー賞ノミネーションの発表が、現地時間の10月15日にオンラインで行なわれた。
 本来であれば5月に発表されるところが半年近く遅れたのは、もちろんコロナ禍によるブロードウェイの劇場閉鎖に伴う全公演休止が原因。トニー賞史上類を見ない事態となった。

 ちなみに、2019/2020シーズンの候補資格は、2020年2月19日までに(プレヴュー開始ではなく)正式オープンしていること。
 それをクリアしたミュージカル作品は次の4本(トニー賞公式サイトにも有資格作品として載っている)。

Moulin Rouge!: The Musical
The Lightning Thief: The Percy Jackson Musical
Tina: The Tina Turner Musical
Jagged Little Pill

 そんなわけで、プレヴューは開始したものの、2月20日以降に正式オープンした、あるいは正式オープンを迎えていない以下の6本は、今シーズンの候補から外れた(カッコ内は正式オープン日)。
 投票することになる関係者が観劇できていないことが、期限を区切った理由。

West Side Story(2/20)
Girl from the North Country(3/5)
Six: The Musical(正式オープン前)
Company(正式オープン前)
Mrs. Doubtfire(正式オープン前)
Diana, The Musical(正式オープン前)

 なお、2月19日以前にオープンしているが、期間限定の、それぞれにユニークなパフォーマンス公演である『Freestyle Love Supreme』『David Byrne’s American Utopia』は例外扱いになったようだ(追記:2作とも特別賞を受賞)。

 なにはともあれミュージカル関連の候補を挙げるが、いろいろと異例だ。

[作品賞]
Jagged Little Pill
Moulin Rouge!: The Musical
Tina: The Tina Turner Musical
[主演女優賞]
Karen Olivo Moulin Rouge!: The Musical
Elizabeth Stanley Jagged Little Pill
Adrienne Warren Tina: The Tina Turner Musical
[主演男優賞]
Aaron Tveit Moulin Rouge!: The Musical
[助演女優賞]
Kathryn Gallagher Jagged Little Pill
Celia Rose Gooding Jagged Little Pill
Robyn Hurder Moulin Rouge!: The Musical
Lauren Patten Jagged Little Pill
Myra Lucretia Taylor Tina: The Tina Turner Musical
[助演男優賞]
Danny Burstein Moulin Rouge!: The Musical
Derek Klena Jagged Little Pill
Sean Allan Krill Jagged Little Pill
Sahr Ngaujah Moulin Rouge!: The Musical
Daniel J. Watts Tina: The Tina Turner Musical
[編曲賞]
Tom Kitt Jagged Little Pill
Justin Levine, with Katie Kresek, Charlie Rosen and Matt Stine Moulin Rouge!: The Musical
Ethan Popp Tina: The Tina Turner Musical
[脚本賞]
Diablo Cody Jagged Little Pill
John Logan Moulin Rouge!: The Musical
Katori Hall, Frank Ketelaar and Kees Prins Tina: The Tina Turner Musical
[演出賞]
Phyllida Lloyd Tina: The Tina Turner Musical
Diane Paulus Jagged Little Pill
Alex Timbers Moulin Rouge!: The Musical
[振付賞]
Sidi Larbi Cherkaoui Jagged Little Pill
Sonya Tayeh Moulin Rouge!: The Musical
Anthony Van Laast Tina: The Tina Turner Musical
[装置デザイン賞]
Riccardo Hernández and Lucy Mackinnon Jagged Little Pill
Derek McLane Moulin Rouge!: The Musical
Mark Thompson and Jeff Sugg Tina: The Tina Turner Musical
[照明デザイン賞]
Bruno Poet Tina: The Tina Turner Musical
Justin Townsend Jagged Little Pill
Justin Townsend Moulin Rouge!: The Musical
[衣装デザイン賞]
Emily Rebholz Jagged Little Pill
Mark Thompson Tina: The Tina Turner Musical
Catherine Zuber Moulin Rouge!: The Musical
[音響デザイン賞]
Jonathan Deans Jagged Little Pill
Peter Hylenski Moulin Rouge!: The Musical
Nevin Steinberg Tina: The Tina Turner Musical

 なにより驚くのは、[楽曲賞]にミュージカル作品が挙がっていないこと。
 というのも、候補資格のある4作品の内、オリジナル楽曲を持つのは『The Lightning Thief: The Percy Jackson Musical』だけ。候補に挙がるとすれば同作なのだが、なぜか無視されている。と言うか、この作品、いずれのカテゴリーにおいても候補に選ばれていない。
 逆に言うと、今回のトニー賞で候補になっているミュージカル作品は全てジュークボックス・ミュージカルだということ。
 結果、[楽曲賞]の候補作は全てプレイから選ばれている。一応掲げておく(いずれも作曲のみ)。

Christopher Nightingale(music) A Christmas Carol
Paul Englishby(music) The Inheritance
Fitz Patton and Jason Michael Webb(music) The Rose Tattoo
Lindsay Jones(music) Slave Play
Daniel Kluger(music) The Sound Inside

 [リヴァイヴァル作品賞]もミュージカル作品の候補はゼロ。なので、上掲リストに同項目はない。
 これは、該当作品がないから致し方ないのだが、『West Side Story』の正式オープン前日で対象期限を区切っているところに、なんらかの意図を感じないでもない。

 [主演男優賞]の候補が1人というのも異例だ。
 候補が1人だからといって、そのまま無投票で決まるわけではなく、投票総数の60%が賛成票を投じると賞が授与される、という決まりのようだ。

★(ちょっとだけ)予想

 さて、従来通りなら、ここで全カテゴリーについて受賞予想をして、みなさんと盛り上がりたいところだが、なにしろブロードウェイ劇場街は来年半ばまで閉まったまま。実際に公演が再開されるのは秋口になりそうな状況の中(もっと言うと、日本からの観光客がいつからアメリカに入国できるようになるかも不透明な中)、事実上3つしかない、しかも個人的にはいずれも“決定打”ではない候補作品を相手にあれこれ言ってもなあ、というのが今の正直な気分。
 なので、異例のシーズンに相応しく、ここも異例で、ざっくりした全体予想と、気になる2カテゴリーについての希望的予想だけ、書き留めておきます。

 全体予想としては、全てのカテゴリーにわたって、『Jagged Little Pill』『Moulin Rouge!: The Musical』の2強対決になるだろう、ということ。3本の中では『Tina: The Tina Turner Musical』が質的に少し弱い。
 で、2強を比べると、派手で規模が大きい『Moulin Rouge!: The Musical』の方に分がある気がする。コロナ禍がなかったら、より今日的な『Jagged Little Pill』に票が動いたかもしれないが、この停滞感の中、華々しさに気持ちが傾くんじゃないか、と。もっとも、コロナ禍がなければ他にもライヴァルがいたわけだが。

 気になる2カテゴリーの1つは、[助演女優賞]
 こちらに、「賞レースの目玉になるだろう」と書いた『Jagged Little Pill』のローレン・パットゥンに1票投じておく。

 もう1つの気になるカテゴリーは、[助演男優賞]
 『Moulin Rouge!: The Musical』を狂言回しとしてグイグイ引っ張ったダニー・バースタイン。8度目のノミネーションで受賞するかどうか。応援したい。

 以上。

 ところで、賞の発表がいつになるのか、今のところ発表されていない(と思う)のだが、授賞式はやらないんだろうな(追記:現地時間2021年9月26日にウィンター・ガーデン劇場で授賞式開催となった)。

★★★★★

[授賞式直前の追記]

 以上は約1年前に書いたノミネーションと獲得予想だが、候補作が少ないこともあり、当時から関心は薄かった。が、発表直前になって興味を惹く事案が発生した。なかなか微妙な問題なのだが。

 興味はただ一点。「助演女優賞」を『Jagged Little Pill』のローレン・パットゥンが獲るかどうかということ。
 同作でパットゥンが演じているジョーというキャラクターは脇役ながらドラマの上では重要な存在。そのジョーは舞台上でトランスジェンダーのように見えるが、その描かれ方に矛盾があるという指摘がなされ、SNS上で拡散された。プロデューサーたちは、この問題を当初は軽視していたらしいが、ここに来て公式サイト上で声明を発表。配慮が足りなかったという謝罪と共に、そうした案件に関する指導的立場の人材をプロダクションに加え、改めて脚本を精査するチームも導入すると宣言。新たな視点から劇場再開後のジョー役のオーディションを行なうという事態にまで到っている。ちなみに、パットゥン自身はシスジェンダー。
 『Jagged Little Pill』の再開は10月21日に予定されているが、新たなキャストはまだ発表されていない。ローレン・パットゥンは外されるのだろうか。それを前提にした場合、パットゥンがトニー賞を受賞する可能性はあるのか?
 ここで彼女の受賞を予想したこともあるが、それとは別に、このデリケートな問題は将来に小さくない影響を及ぼしそうで気になるところ。
 てか、そもそもパットゥンは授賞式に出席するのか? パフォーマンスには参加? 気になる。
 全ては明日だ。

[さらに追記]

 どうやらローレン・パットゥンは残るようです。
 ただし、「主演女優賞」候補のエリザベス・スタンレイと「助演女優賞」候補のセリア・ローズ・グディングは外れるようで。スタンレイは妊娠中(らしい。みなさん情報通ですね)、グディングはTVの『Star Trek』の仕事を入れたようです。
 ともあれ、パットゥンが受賞するかどうか。注目です。

 ※結果と感想はこちら

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