The Chronicle of Broadway and me #299(The Prince And The Pauper)

2002年7月@ニューヨーク(その3)

 The Prince And The Pauper(7月8日20:00@Lamb’s Theatre)は、マーク・トウェインの同名小説(邦題:王子と乞食)を原作とするミュージカル。上演されたラムズ劇場は、かつてトウェインが仲間と集った会員制クラブだった場所だとか。

 ヘンリー八世時代(16世紀前半)のロンドンを舞台にした、外見がよく似た王子と乞食の少年が入れ替わる話は、ごぞんじの方が多いと思う。
 王子はヘンリー八世の後を継ぐエドワード六世(実在)。話のクライマックスは、少年たちが入れ替わったまま前王が没して王位継承が施行されようとするところに設定されている。で、王子に化けた乞食の少年を悪大臣が裏から操ろうとし、前王の体制下で不遇をかこつ騎士がホンモノの王子を助けて最後にハッピーエンドになる。個人的に記憶のある1962年制作のディズニー実写版は、そういう展開だった。
 この舞台版もそう。トウェインの原作(未読)が本来持っていたらしいイギリスの身分制度/格差社会への辛辣な皮肉といった視線は、なくなってはいないが、さほど強くは感じられない。安定した世界観の中で、市井の生活を知ることで王子が成長を遂げる冒険物語、といった辺りに価値観は留まる。

 それに呼応するように、音楽的にもオーソドックスで、冒険はない。あえて言えば、’50~’60年代のロンドン・ミュージカル的(ポップ味のあるオペラ/オペレッタ的)な、かっちりした作りの楽曲が並ぶ。

 そんなわけで、よくできてはいるが、刺激もないという作品になった。

 ……というのが当時の印象だったが、改めて調べてみると、エグゼクティブ・プロデューサーのキャロリン・ロッシ・コープランドは、当時、マディソン・スクエア・ガーデン/ラジオ・シティの制作面での副社長だったらしく、当初、大劇場での上演演目として提案されていた企画をスケール・ダウンしてオフで上演した、ということのようだ。つまりは、初めからマディソン・スクエア・ガーデン内の劇場で上演されるようなファミリー向けミュージカルとして発案されていたわけで、制作サイドからすれば狙い通りの作品だったわけだ。12人というオフにしては多めの出演者がいるのもうなずける。
 おそらく、今でも地方劇場や学生劇団によって上演されていたりするのだろう。ある意味、時代を超えて生き延びる作品なのかもしれない。

 作曲ニール・バーグ、作詞ニール・バーグ&バーニー・ガージア&レイ・ロデリック、脚本バーニー・ガージア&レイ・ロデリック、演出レイ・ロデリック。

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