The Chronicle of Broadway and me #353(Wilder)

2003年10月~11月@ニューヨーク(その7)

 『Wilder』(11月1日14:00@Peter Jay Sharp Theatre/Playrights Horizons)は、作者陣の構成が面白い。
 1993年にブロードウェイに登場したパントマイム的パフォーマンス『Fool Moon』の音楽を担当した、と言うか、メインの演者、デイヴィッド・シャイナー、ビル・アーウィンと一緒に舞台に出て演奏していたバンド、レッド・クレイ・ランブラーズのメンバーであるジャック・ヘリックと、その時にはすでにバンドを抜けていたが以前メンバーだったマイク・クレイヴァーが、劇作家のエリン・クレシダ・ウィルソンと組んで作り上げている。3人いずれもが「Co-author」というクレジットだが、プレイビル・オンラインの当時の記事によれば、ウィルソンが書いた『Cross-Dressing In The Depression』という戯曲にヘリックとクレイヴァーが音楽を付けていく形でミュージカルとして膨らんでいったようだ。
 ちなみに、ジャック・ヘリックもマイク・クレイヴァーも、それぞれ、複数のミュージカルに脚本や音楽で関わった経歴がある。
 また、この作品で、ヘリックとクレイヴァーは、『Fool Moon』のレッド・クレイ・ランブラーズのように舞台上に出て楽器を演奏している。

 舞台設定は、大恐慌時代のコロラド州デンヴァーにある古びた売春宿。そこで過ごした思春期の自分を、年老いたワイルダーが回想する。
 父親が刑務所に入り、母親はメイドの仕事をするため、若いワイルダーは売春宿に住み込みの皿洗いとして送り込まれる。そして、そこにいる若い売春婦メローラに恋をする。

 役者は3人だけ。
 年老いたワイルダー役が、この年の夏まで『Urinetown』に出ていたジョン・カラム。
 若いワイルダーはジェレミア・ミラー。
 メローラ役がレイシー・コール。
 そして、レイシー・コールはワイルダーの母親も演じる。そのあたりにエディプス・コンプレックスの影がちらつく。

 ……のだが、実のところ、詳細は覚えていない。年老いたワイルダーはモノローグで過去を振り返りながら、若い2人のところにも姿を現し、時折、演技に絡む素振りを見せる、といった重層的な構成や、内面的な歌の内容がよく理解できなかったのだと思う。こちらに「やや高尚すぎか」と書いたのは負け惜しみだろう(笑) 。
 ヘリックとクレイヴァーの奏でる「アコースティックな楽器の響き」が素敵だった記憶がある。もう1度聴いてみたいのだが、キャスト・アルバムも残されていないようで、残念。

 演出リサ・ポルテス。振付ジェイン・コムフォート。

 10月14日にプレヴュー開始。好評だったのだろう、公演期限が当初予定されていた11月7日から1週間延長されている。