The Chronicle of Broadway and me #827(Moses Man/Acappella/Spot On The Wall/Daughter Of The Waves/Wearing Black)

2015年7月@ニューヨーク(その5)

 NYMF(ニューヨーク・ミュージカル・シアター・フェスティヴァル)参加作品13本を3分割して簡単な紹介を(その1)。

 『Moses Man』(7月13日21:00@Alice Griffin Theatre/Pershing Square Signature Center)は、1930年代末期のオーストリアでナチスに対するレジスタンス活動を行なっていたユダヤ人の若者と、彼の家族や仲間たちの運命を、回想でたどる話。作詞・脚本のデボラ・ヘイバーの両親の体験を元にしているという。
 タイトルにモーゼという語があることからわかるように、ユダヤ人たちの脱出譚なのだが、単純にナチスから逃げるだけでなく、逃げる途上での各国の対応により、さらなる逃亡を強いられる様子も描かれる。それは、もしかしたら、ユダヤ人だけの運命ではなく、しかも過去の出来事でもないのかもしれない、と思わせるところに作者たちの真意がありそう。
 作曲ケイシー・フィリアチ。
 演出マイケル・ブッシュはNYMFではおなじみ。振付ウェンディ・セイブ(『Myths And Hymns』)。

 若き日の主人公を演じるオリヴァー・ソーントンは主にウェスト・エンドで活動している人。
 


 『Acappella』(7月14日13:00@PTC Performance Space)は、その名の通りア・カペラ歌唱によるミュージカル。
 ボーイズ・バンドで売り出してアイドル的人気を得た少年が、故郷の町に帰った時に、ゴスペル・ミュージックの真髄に触れて、”自分の音楽”を見つけることの大切さに気づく。というストーリーは、どうということもないが、作曲・作詞アカペラ・カンパニー名義による楽曲(トラディショナルを含む)をア・カペラ・コーラスで歌う音楽は、豊かで魅力的。
 創案グレッグ・クーパー。脚本ヴィニー・メリ。
 演出リー・サマーズ。振付レズリー・ドッカーリー。

 主人公の少年役は『Motown The Musical』に途中参加でエディ・ケンドリックス他を演じていたタイラー・ハードウィック。彼を諭す叔母役が『The Who’s Tommy』でアシッド・クイーンを演じたシェリル・フリーマン(『Play On!』『The CIvil War』『Fame』Miracle Brothers『Walmartopia』)。
 


 『Spot On The Wall』(7月14日17:00@Theater 3)の舞台設定は美術館。そこを訪れて展示物に触発された、ある家族の様々な思いが、歌とダンスを通じて哲学的な様相で展開していく。正直、よく理解できなかった覚えがある。
 作曲アレックス・ミッチェル、作詞・脚本ケヴィン・イェーガー。
 演出デヴィン・ダン・キャノン。振付アリシア・ロウソン。

 出演は、ロバート・ヘイガー(『Spring Awakening』『Bye Bye Birdie』『Doctor Zhivago』)、マディソン・ストラットン、ニール・メイヤー(『Les Miserable』)、チャールズ・ウェスト(『Cyrano: The Musical』『The Scarlet Pimpernel』)他。
 


 『Daughter Of The Waves』(7月14日19:30@Studio Theatre/Theatre Row)はリーディング上演。
 巡業するサーカス一座が、ナチスに占領されたヨーロッパからアイルランドにユダヤ人たちを逃がす、というのが大筋。これも実際にあった話に基づいているらしい。劇中劇で一座が演じているのは、ケルト神話等に伝わるセルキー(皮膚を脱ぎ捨てて人間に変わることのできるアザラシの民)のラヴ・ストーリー。
 楽曲は、キャット・ブラックウッド&アイリーン・コノリー作曲・作詞のオリジナル+トラディショナル。脚本・演出アイリーン・コノリー。

 出演は、リーニャ・ライドアウト(『Cabaret』『Company』『War Horse』)、キアラン・シーハン(『Les Miserable』『The Phantom Of The Opera』)他。
 


 『Wearing Black』(7月15日13:00@Theater 3)は、シンガー・ソングライターでもあるライリー・トーマスの作曲・作詞・脚本によるミュージカル。トーマスは2012年のNYMFに『Stuck』という作品で参加し(未見)、注目を浴びたようだ。
 ロック・バンドを組んでいた双子の1人がドラッグで死亡し、生き残った1人が、やはりドラッグ禍で苦悩する。簡単に言うと、そういう話。演奏はいきいきしていて見応えがあった。
 演出のジェレミー・スコット・ラップは、ブロードウェイ版『Bonnie & Clyde』の演出助手を務めていた人。

 主演のデヴィン・イラウは、再演版『Les Miserable』に途中参加した後、『Miss Saigon』のブロードウェイ再演版に出演。そういう系統の歌唱をする俳優。
 

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