奇蹟~miracle one-way ticket~@世田谷パブリックシアター 2022/03/23 14:00

 面白いが情報量が多くて難解な脚本を、スピーディかつ軽快な演出で謎解きしてみせた。そんな印象のミステリー舞台ミュージカル風味付き。
 脚本/北村想、演出/寺十吾(じつなし さとる)。

 崖から転落して(どうやら突き落とされたらしい)記憶を失った探偵・法水連太郎(のりみず れんたろう)と、彼の窮状を知らされて大分県の山中にある七竈(ななかまど)なる土地に駆けつけた親友の医師・楯鉾寸心(たてほこ すんしん)。そんな2人の登場で幕が開く(あ、その前に狂言回しとしての楯鉾の口上があったか。ま、いいや)。
 楯鉾は法水をシャーロックと呼び、記憶を失った法水は「ということはキミはさしずめワト“ス”ンか」(おおよそこんなセリフ)と楯鉾の役割を認識する。そんな関係の2人。
 演じるのは井上芳雄(法水)と鈴木浩介(楯鉾)で、井上の「ワト“ス”ン」の「ス」の発音が滑らかなのが、まず印象的。
 その滑らかさが、そのまま2人の丁々発止な会話の滑らかさにつながり、法水の滑らかな推理につながって、“見えない事件”がしだいに明らかにされていく。
 そう。このミステリー、いったい何の事件が起こっているのかわからない。というのも、解決を依頼された探偵が、依頼人と依頼内容に関する記憶を失っているから。しかも、依頼人と目される人物のゆくえも、わからなくなっていて……。
 でも、まあミステリーって、だいたいそんな風な展開か(笑)。

 いずれにしても、まだネタバレが許される段階ではないので、ストーリーについて触れられるのはこのぐらいだが、北村想の脚本には、バカチンだのバチカンだのの歴史的背景や知られざる思惑が出てきて、素材は意外なほどに重くスリリング。だから余計に面白い。

 で、とにかく寺十吾の演出が快調。
 前述した主演2人のテンポのいいセリフのやりとり、見た目も魅力的で意味も深いプロジェクション画像/映像、鮮やかな場面転換、といった要素が、なんとも楽しい。中でも、説明的にならざるをえない脚本の内容を、観客の興味を逸らさずにわかりやすく伝える技が見事。この中身の濃い内容を、のほほんとした雰囲気で見せてしまうのが素晴らしい。
 井上芳雄を想定しての歌の挿入が、単なるファン・サーヴィスでもギャグでもなく、作品の中で意味を持って生きているのもいい(音楽/坂本弘道)。
 そして、いつもながら松井るみの美術は魅力的。

 役者は他に、大谷亮介、井上小百合、瀧内公美、岩男海史。井上にはさらなる発声の鍛錬を望みたい。

 最初に予約した3月16日の公演は飛んだが、改めてチケットを取って観たかいがあった。

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